研究概要 |
128株の肺癌細胞株のmiRNAとmRNAのマイクロアレイデータをダウンロードして、発現量に顕著な差を認める364mRNAと42miRNAを抽出し、宮野研の玉田らとの共同研究によって非線形ベイジアンネットワーク解析ソフトウェアSiGNを用いたネットワーク推定を行った。我々がASH1によって発現誘導されて神経内分泌(NE)分化に重要な役割を担うマイクロRNAとして同定したmiR-375を、本ネットワーク推定はASH1下流に正しく推定できており、その高い確度が示唆された。また、124例のNSCLC症例について、mRNAとmiRNA双方の網羅的発現プロファイルデータの取得を完了しており、術後再発・予後など各種臨床病態と有意に関連するサブネットワークの抽出へと進む予定である。 気道上皮のNE細胞の発生に必須な転写因子であり、また、我々が肺小細胞癌のNE分化と生存の鍵を握ることを示してきたASH1について、miRNAとlong intergenic non-coding RNA(lincRNA)に注目しつつ、その遺伝子制御ネットワークのシステム生物学的理解を目指した検討を開始した。肺腺癌細胞株A549にレンチウイルスベクターを用いたASH1の発現誘導系(Tet-On)を構築し、小細胞癌類似のNE分化の誘導を確認し、さらに時系列データを採取した。また、ASH1のmRNA量よりもその転写活性度をよく反映する遺伝子セットを、実験的にASH1による発現制御を確認した遺伝子群をもとに、宮野研の新井田らが開発したソフトウェア(EEM)を用いて抽出し、ASH1モジュールとして規定した。現在、ASH1モジュールの活性度と相関を示すmRNA,miRNA,lincRNAの探索・同定を進めつつある。 今後さらにmRNAとマイクロRNAの双方を含むネットワークの綿密な解析を推進し、ヒト肺癌の分子病態の全貌に迫りたい。
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