計画研究
肺腺癌の多様性について、miRNAの階層的クラスタリング解析が示唆した、胎児期と成人期の肺への類似を示す二群の存在に特に着目して進めた。スーパーコンピュータ上のSiGN-BNプログラムを用い、ベイジアンネットワークによる推定を行ったところ、両者間で有意な発現差を示す遺伝子が濃縮された19個のサブネットワークのハブ遺伝子にmiR-30dとmiR-195が含まれていた。これらのマイクロRNAを肺癌細胞株に導入して検証したところ、患者腫瘍中で制御関係が推定された子ノードの遺伝子群の発現の殆どが予想された方向に変化した。逆に、miR-30dとmiR-195の導入で変化した遺伝子群について、ヒト肺癌腫瘍組織における影響度をスコア化して検討したところ、これらが高発現を示す成人期肺類似のマイクロRNA発現プロファイルを示す症例群では、低発現を示す胎児期肺に類似した症例群に比して、有意に強い影響度が観察された。代表的癌遺伝子のc-mycをハブとする転写制御ネットワークについても検討を進めた。ドキシサイクリン添加によりc-mycを発現誘導可能な2株の肺癌細胞株を樹立し、実験的にc-mycによる転写活性化と抑制の程度を反映する遺伝子モジュールを規定した。同一の肺がん患者腫瘍組織から得たmRNAとマイクロRNA双方のマイクロアレイ解析データセットに適用して、c-mycの制御活性度と相関するマイクロRNA群を同定したところ、c-mycによる転写活性化を受ける或いは、逆にc-mycを標的遺伝子とするマイクロRNAが複数含まれていた。現在、c-myc誘導時に発現誘導されず、患者腫瘍組織中では相関を示すマイクロRNAに関し、c-mycの転写活性に関わるco-factor等を標的とする可能性について検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
肺腺癌の分子病態の多様性に関わる分子機構に迫るべく、スーパーコンピュータを駆使したシステム生物学的なアプローチと、分子細胞生物学的な実験的手法を統合して取り組んだ。東大医科研・宮野研究室と共同して、遺伝子発現制御へのマイクロRNAの関与を考慮しつつ、スーパーコンピュータ上に実装されたSiGN-BNソフトウェアの改変を進めて、マイクロRNAを含む遺伝子制御関係に対するベイジアンネットワーク推定の最適化を図った。同ソフトウェアを用いたシステム生物学的解析によって、肺癌患者の腫瘍組織内で実際に機能している、mRNAとマイクロRNAの両方が関わる相互発現制御ネットワークを推定し、さらに綿密な実験的な検証を遂行することによって、その有用性を示すことができた。本研究の推進によって得られた成果は、実験的なアプローチとシステム生物学的なアプローチを統合することによって、マイクロRNAとmRNA間の制御関係について、従前のマイクロRNAと標的遺伝子との一対一対応の制御関係という微視的な視点から脱却した、遥かに俯瞰的な視点から、且つ、実際のがん患者の腫瘍組織中で機能している制御関係を直接推定できることを示すことができた。
がんの分子病態を解明することを目指して、ベイジアンネットワーク推定を基盤とするシステム生物学的アプローチと、分子細胞生物学的な実験的手法を統合した研究を進めて成果を得た。今後はさらに、遺伝子制御関係におけるモジュレーターの存在を考慮したシステム生物学的解析手法についても取り組みを広げつつ、より密接なウェットとドライの研究アプローチの統合を実現していきたいと考えている。また、マイクロRNAに加えて、ゲノム上に多数存在することが近年明らかとなりながら、未だその機能についてはほとんど未解明な長鎖ノンコーディングRNA遺伝子群についても、その遺伝子発現制御機構について、研究対象として取り上げる予定である。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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