研究概要 |
① がんのゲノムプロファイルの解析・新規分子標的の同定に関する研究 血管免疫芽球性T細胞リンパ種 (AITL) 6例の全エクソン解析により、本腫瘍を特徴づける異常としてRHOA変異を新規に同定した(Sakata-Yanagimoto, et al., Nature genetics, 2014)。変異は全て17番目のglicineをvalineに置換する変異で、AITLおよびこれに関連した末梢T細胞リンパ種の70%内外に認められ、機能的にはdominant negativeに作用する変異であることが示唆された。また、成人T細胞性白血病・リンパ腫(ATL)35例について全ゲノム解析ないし全エクソン解析、並びにRNAシーケンスおよびメチル化解析を行った。ATLでは一群の変異がT細胞受容体シグナル経路に関わる多数の遺伝子に系統的に生じていることが明らかとなった。これらの中には多数の低分子阻害薬の標的となりうる複数の変異が含まれており、ATLの分子診断・治療を考える上で新たな視点が得られた。クッシング症候群に関する副腎腺腫、腎盂亜尿管癌および慢性骨髄性白血病についても全エクソン解析を実施し、新たな分子標的が同定された。本研究によってH23-24年度に同定したMDSにおけるRNAスプライシング因子およびコヒーシンの変異のモデルマウスの解析については、昨年度までの研究で得られた変異アレルを有するマウスのB6 backgroundへの戻し交配がなお進行中である。 ② がんの腫瘍内多様性の理解に関する研究 低悪性度神経膠芽腫、大腸癌について同一腫瘍試料の多数サンプリングおよび経時的に得られた試料について全エクソン解析を行い、腫瘍内多様性の解析を行うことにより、腫瘍のクローン進化の過程の解明を行った。また、腎癌については、全ゲノム解析のデータの解析による腫瘍内多様性の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本計画研究はがんの大規模ゲノミクスによる網羅的な変異の同定に基づいて、システム生物学的アプローチによる発がんの主要pathwayの同定を通じたシステムとしてのがんの病態と個性を解明することである。この目的にために、これまでに、種々の癌腫を対象として、SNPアレイを用いた網羅的なゲノムコピー数異常の解析、全エクソンないし全ゲノム解析による網羅的な遺伝子変異の解析、RNAシーケンスによる網羅的な遺伝子発現解析、Infinium 450Kアレイを用いたDNAメチル化解析により、発がんに関わる遺伝学的な異常の網羅的な探索を行った。これまでに、宮野悟領域代表との緊密な共同研究のもとに、シーケンス解析のための高度なinformatics解析のパイプラインを構築し、当初の計画を大きく上回る腫瘍試料の解析を達成した。その結果、骨髄異形成症候群におけるRNAスプライシング因子の新規パスウェイ変異の発見(Yoshida et al., Nature, 2011)をはじめとして、MDSおよび関連骨髄系腫瘍におけるコヒーシン変異、SETBP1変異を含む多数の新規遺伝子変異の同定とその機能解析(Kon et al., Nature genetics, 2013; Sakaguchi et al., Nature genetics, 2013; Makishima et al., Nature genetics, 2013 )、Down症候群関連骨髄系腫瘍のゲノム変異の全体像の解明(Yoshida et al., Nature genetics, 2013)、腎癌の分子異常の全体像の解明 (Sato et al., Nature genetics, 2014)、食道扁平上皮癌のゲノム変異の網羅的解明(Lin et al., Nature genetics, 2014)、末梢T細胞リンパ種におけるRHOA変異の同定とその生物学的機能の解析(Sakata-Yanagimoto, et al., Nature genetics, 2014)など、がんの病態と個性を解明に関する多数の画期的成果が得られた。
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