研究領域 | システム的統合理解に基づくがんの先端的診断、治療、予防法の開発 |
研究課題/領域番号 |
22134007
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
曽我 朋義 慶應義塾大学, 環境情報学部, 教授 (60338217)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / 生体分子 / バイオテクノロジー |
研究実績の概要 |
1)エネルギー代謝経路に特化したメタボローム解析技術の高感度化 近年、がん特異的な代謝を解明し、代謝酵素を標的とした抗がん剤の開発が精力的に行われている。本研究では、がん患者から採取した正常組織とがん組織のメタボローム、プロテオーム、トランスクリプトーム、ゲノムの解析結果から、がん細胞に特異的なエネルギー生産経路やがんの生存戦略に関わる分子ネットワークを探索し、さらにモデルマウスや培養細胞の実験を行って、効率的な抗がん剤の新規標的の発見を目指すものである。 平成24年度までに、がんの代謝で注目されている解糖系、TCA回路などのエネルギー代謝経路の代謝中間体を高感度に測定するキャピラリー電気泳動-質量分析計法を開発した。 2)がんおよび正常組織、培養細胞のメタボローム測定 大腸がん患者205例から採取した正常組織とがん組織のメタボローム、プロテオーム解析を行った。解糖系、ペントースリン酸回路、グルタチオン生合成経路、グルタミン代謝などががん組織で亢進していた。また各ステージ約10例の組織のトランスクリプトーム、ゲノムの解析を行った。 今後これらの結果を統合的に解析して、大腸がんが、増殖、浸潤、転移などに必要とするエネルギー生産経路、核酸、脂質、タンパク質などの高分子化合物の生合成経路およびがんの生存戦略に関わる分子ネットワークを抽出し、効率的な腎臓がんの化学療法野の新規標的を探索する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)エネルギー代謝経路に特化したメタボローム解析技術の高感度化 がんの代謝で注目されている解糖系、TCA回路などのエネルギー代謝経路の代謝中間体を高感度に測定する方法を開発した。モニターする質量数に限度はあるものの高感度検出が可能な三連四重極質量分析計をキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE)に接続し、多重反応モニタリング法を用いて、エネルギー代謝経路の代謝物を高感度に検出する方法を検討した結果、ヌクレオチド類やCoA類などの窒素元素を持っている陰イオン性代謝物は数十倍から数百倍の高感度検出が可能になった。 またシースレス方式のCE-MS法を陰イオン代謝物の測定法に応用し、エネルギー代謝経路に多く存在する陰イオン性の代謝物の高感度化を開発する予定であったが、シースレス方式に接続可能な陰イオン測定用のコーティングキャピラリーの開発が遅れたために検討することができなかった。来年度引き続き開発を行う予定である。 2)がんおよび正常組織、培養細胞のメタボローム測定 大腸がん患者から採取した正常組織とがん組織のメタボローム、プロテオーム解析を行った結果、正常細胞とがん細胞では明らかに解糖系、ペントースリン酸経路、グルタチオン生合成経路、グルタミン代謝など幾つかの代謝経路が有意に異なっていた。また代謝はがんのステージが早い段階から変動していることや分化の違いによって代謝の変動が異なることも判明した。 今後これまでに得られたオミックスデータを統合的に解析して、大腸がんが、増殖、浸潤、転移などに必要とするエネルギー生産経路、核酸、脂質、タンパク質などの高分子化合物の生合成経路およびがんの生存戦略に関わる分子ネットワークを抽出し、効率的な大腸がんの化学療法野の新規標的を探索する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)法によるメタボローム測定の高感度化に関しては、引き続きシースレス法による陰イオン性代謝物の測定法などの開発を行う。 平成24年度までに大腸がん患者205例から採取した正常細胞とがん細胞のメタボローム、プロテオーム、トランスクリプトーム、ゲノム解析が終了し、代謝物、酵素量、mRNA、がんに関わる遺伝子のシーケンスデータを採取した。メタボロームの結果では、正常細胞とがん細胞では明らかに解糖系、ペントースリン酸経路、グルタチオン生合成経路、グルタミン代謝など幾つかの代謝経路が有意に異なっていた。また代謝はがんのステージが早い段階から変動していることや分化の違いによって代謝の変動が異なることも判明した。 大腸がんの場合は、APC、K-ras、P53、SMADなどの遺伝子に変異が蓄積することによって腺がんからがんへ進行することが報告されており、遺伝子の変異と代謝を含めた分子間ネットワークの解析には適したモデルである。今後は、これらの遺伝子の変異による代謝、酵素、mRNAの変動を動的パスウェイのモデリング・シミュレーションソフトウェアなどで解析することによって、がん化に関わっている分子ネットワークを探索する。 さらに大腸がんのモデルマウスや培養細胞を用いて、RNA干渉や遺伝子導入による目的の代謝酵素を阻害したり、高発現したして、がん細胞の増殖や死滅を測定する実験などを行い、がんの治療標的シーズとして有用な遺伝子や代謝酵素を特定する計画である。
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