研究領域 | 質感認知の脳神経メカニズムと高度質感情報処理技術の融合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22135007
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
小松 英彦 生理学研究所, 生体情報研究系, 教授 (00153669)
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研究分担者 |
一戸 紀孝 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所・微細構造研究部, 部長 (00250598)
郷田 直一 生理学研究所, 生体情報研究系, 助教 (30373195)
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キーワード | 質感 / 視覚 / 表面反射特性 / 素材識別 / 脳科学 |
研究概要 |
質感認知の重要な機能は素材識別である。ヒトが日常的に接する様々な物体素材の識別のメカニズムを調べるために、コンピュータグラフィクスで作成した、9種類(金属、ガラス、セラミック、石、木目、樹皮、皮革、布、毛)の素材の心理的印象に基づく分類が腹側高次視覚野の紡錘状回皮質で行われていることを見出し、論文に発表した。ニューロンレベルで素材識別のメカニズムを明らかにするために、サルにヒトで用いたものと同じ素材画像刺激を見せて、fMRIを用いて脳活動を計測した。また南本班と共同でカテゴリ識別課題を訓練したサルで、素材画像をどのように識別するかを行動レベルで調べた。さまざまな光沢刺激を用いてサルの下側頭皮質から記録したニューロンの応答特性を詳細に解析し、その結果を論文にまとめると共に、光沢知覚空間におけるチューニング特性を明らかにした。またサルのfMRI実験で光沢刺激に感受性の高い脳領域が腹側視覚経路に沿って初期視覚野から下側頭皮質に広がっていることを見出した。またさまざまな素材の画像刺激を用いて画像特徴と心理評価を解析する方法論に検討を加え、新しい解析方法を考案した。また異なる輝度コントラストの色刺激に対するサルの視覚野のニューロン応答を調べ、輝度コントラストの影響を場所間で比較した。質感認知における視聴覚統合に関して、様々な素材の物体の画像と叩いて生じる音による視聴覚手がかりを統合した材質の知覚のメカニズムを調べるために、西田班と共同で評定実験を行い予備的なfMRI測定も行った。またマーモセットに4種類の素材、3種類の形状、3種類の色の組み合わせからなる物体画像刺激を提示して上側頭溝周囲で多点電極記録を行った結果、上側頭溝の深部で素材にのみ選択性を示すニューロンが見いだされると共に、上側頭溝の外側では素材と形状の両方に選択性を示す細胞が見いだされ、質感情報の分散的表現様式の一端が明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトの素材識別に関する脳活動の解析が進み、その成果を踏まえてサルの素材識別の研究を行動実験とfMRIによる脳活動解析について進めることができた。一方質の程度の識別に関しては、サルの視覚野における光沢情報の表現の解析が単一ニューロンレベルとfMRIの両面において進んだ。またマーモセットを用いた研究が進展し、素材識別に関する脳内ネットワークを明らかにする準備が整いつつある。これらのことからおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
素材識別のメカニズムに関しては、さまざまな素材でできた実物体刺激を用いてサルに素材の体験をさせることにより、学習が識別行動や脳活動に及ぼす影響を調べ研究を発展させる。質の程度の識別のメカニズムに関しては、光沢知覚に影響を及ぼすことが知られている画像操作がニューロン活動にどのように影響するかを調べることにより、ニューロン活動と知覚の関係を明らかにしていく。またマーモセットを用いた多点同時記録実験を推進し、側頭葉皮質において物体形状情報の表現と質感情報の表現がどのように関係しているかを明らかにしていく。
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