計画研究
物体の表面状態の認知は質感知覚の重要な側面の一つであるが光沢判断は中でも顕著な質感知覚の例である。これまでに物体表面の物理的な反射パラメータを操作した画像刺激を用いて、サルの下側頭皮質にさまざまな光沢を区別するニューロン(光沢選択性ニューロン)が存在することを見出してきた。これらのニューロンが光沢知覚にどのように関わっているかを明らかにするために、光沢知覚に関係するパラメータに基づいた刺激セットを作成しニューロンの応答を調べた。その結果、下側頭皮質の光沢選択性ニューロンの活動は光沢知覚に重要なパラメータの線形和でよく表すことができ、またニューロン集団の活動から光沢知覚パラメータを精度よく推定できることが示され、これらのニューロンの活動が光沢知覚と密接に関係していることが分かった。この結果は現在論文にまとめて投稿中である。また質感認知のもう一つの重要な機能である素材識別に関しては、ヒトの実験で用いたのと同じ形を統制した9種類(金属、ガラス、セラミック、石、木目、樹皮、皮革、布、毛)の素材のCG刺激をMRI装置内で注視課題を行っているサルに呈示し、脳活動をfMRI法により記録し脳のどの部位の活動が画像特徴やヒトの素材知覚と相関しているかを調べた。その結果初期視覚皮質の活動は画像特徴に相関するのに対し、V4野および下側頭皮質後部の活動は知覚と相関することが分かり、ヒトの結果との類似性と差が明らかになった。この結果は論文にまとめ発表した。またさまざまな素材の識別が大脳視覚野でどのように行われるかを明らかにするために、さまざまな自然素材のテクスチャを注視課題を行うサルに呈示して、V4野ニューロン活動の応答を調べる実験を継続して行った。新世界ザルのマーモセットにおいて、マカクザル同様光沢に選択的に反応する領域が側頭葉上部に見いだされ、この領域は腹側視覚経路に属することが示された。
2: おおむね順調に進展している
サルの光沢選択性ニューロンが光沢に関するどのような情報を表現しているかについて良い見通しを得ることができた。素材識別の研究に関してはサルのfMRIによる脳活動解析からヒトとの類似性が明らかになると共に、素材テクスチャの表現についての電気生理実験も進捗した。またマーモセットを用いた研究が進展し、質感情報に関する脳内ネットワークの一端が明らかになりつつある。これらのことからおおむね順調に進展していると考えられる。
素材識別のメカニズムに関しては、さまざまな素材でできた実物体刺激の画像を用いた脳活動計測を始めており、これを引き続き進めて高次領野での素材表現についてのあらたな知見を得ることができる見通しである。質の程度の識別のメカニズムに関しては、光沢選択性ニューロンの活動と光沢知覚の因果関係を明らかにするために、光沢識別課題をサルに訓練してニューロン活動と知覚の関係を明らかにしていく。またマーモセットを用いたニューロン記録と解剖実験を推進し、側頭葉皮質及びこれと結合する他の脳部位において質感情報がどのように表現されているかを明らかにしていく。
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