研究領域 | 質感認知の脳神経メカニズムと高度質感情報処理技術の融合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22135008
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
本田 学 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所疾病研究第七部, 部長 (40321608)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 神経科学 / イメージング / 情動 / 感性 |
研究実績の概要 |
本研究では、人間の可聴域上限を超える超高周波成分が報酬系神経ネットワークを活性化して、音の感性的質感認知を高める現象「ハイパーソニック・エフェクト」を主な対象として、感性的質感認知に最適化した脳機能計測システムの構築を行うとともに、感性的にネガティブな影響をできるだけ低減した評価指標を開発する。それらを用いて、感覚情報の質感認知に影響を及ぼす刺激パラメータと感性・情動神経系の反応との関連を明らかにする。 脳波と機能的MRIの同時計測により、周期が25秒以上の緩やかなα波パワーの変化に対して、深部脳の活動が正の相関を示すことを見出し、これを応用して、脳波信号から報酬系神経ネットワークを含む深部脳の活動状態を推定するための代用指標〈簡易深部脳活性指標〉を開発した。〈簡易深部脳活性指標〉と心理検査STAIにより計測した状態不安尺度との間には、強い負の相関が存在することが、高い統計的有意性をもって示された。 開発した指標を用いて、感性的質感認知を高める音響情報の情報構造のパラメータを検討し、それらが報酬系神経ネットワークの活性化に及ぼす影響を検討した。その結果、可聴域に隣接した16-32kHzの周波数帯域の超高周波成分の共存は、簡易深部脳活性指標をむしろ低下させるのに対して、48kHz以上の可聴域上限の2倍以上の周波数をもった超高周波成分が共存すると、簡易深部脳活性指標が増加することを見いだした。また、超高周波振動を首から上の頭部に呈示したときには〈深部脳活性指標〉の変化が見られず、首から下の身体に呈示したときには、超高周波振動の付加によって〈深部脳活性指標〉が統計的有意に増大した。 また、ラットを用いて超高周波成分による報酬脳活性化メカニズムを明らかにするため、in vivo microdialysisをもちいた検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感性的な負荷の少ない脳波を用いて報酬系活性を推定する計測する技術の開発、報酬系活性化効果を導く感覚情報パラメータの同定など、予定された研究項目について順調に実績を出している。また、新たに動物を用いた音情報による報酬系活性化メカニズムの解明のための実験系を構築し検討を開始した。げっ歯類をもちいたUltrasound Vocalizationによる報酬系活性化をIn vivo microdialysis法をもちいて検討し、50kHz帯域の鳴き声を聞かせたときに側坐核のドーパミンが有意に増加する知見を得始めている。
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今後の研究の推進方策 |
① 感性的質感認知研究に適した低拘束・開放型の脳機能計測システム構築:昨年度から継続して、感性的質感認知研究に最適化した超小型PETを用いて、ヒトを対象とした基礎的な計測をおこなう。あわせて、座位で計測可能なPET装置の特性を活かして、音響映像情報についての感性的質感認知研究に適した計測環境を構築する。また脳波との同時計測により、報酬系活性および視覚・聴覚系の活性と相関する頭皮上脳波成分を同定する。 ② 報酬系活性化効果を導く感覚情報パラメータの同定:報酬系活性化効果をもたらす、帯域成分、ゆらぎ成分、印加部位についての検討を継続して実施する。 ③ 超高周波によるモノアミン神経系活性化のメカニズムの解明:20kHz以上の超高周波帯域について、可聴域に隣接した帯域は報酬系の活性を抑制するのに対して、50kHz以上の帯域成分は報酬系活動を活性化することを明らかにした。この現象は、げっ歯類にみられるUltrasound Vocalizationと帯域が一致する。そこでUltrasound Vocalizationの実験系をもちいて、超高周波音の異なる帯域成分がモノアミン神経系を活性化するメカニズムを明らかにする。in vivo microdialysisおよび動物用PETをもちいた検討を実施する。 ④超高周波がもたらす行動変化についての解明:マウスに対して超高周波を含む環境音と含まない環境音とを呈示して飼育し、その行動をビデオ観察することにより、報酬系刺激による接近行動などの影響を明らかにする。
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