研究領域 | 質感認知の脳神経メカニズムと高度質感情報処理技術の融合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22135008
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
本田 学 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所疾病研究第七部, 部長 (40321608)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 神経科学 / イメージング / 情動 / 感性 |
研究概要 |
本研究では、人間の可聴域上限を超える超高周波成分が報酬系神経ネットワークを活性化して、音の感性的質感認知を高める現象「ハイパーソニック・エフェクト」を主な対象として、感性的質感認知に最適化した脳機能計測システムの構築を行うとともに、感性的にネガティブな影響をできるだけ低減した評価指標を開発する。それらを用いて、感覚情報の質感認知に影響を及ぼす刺激パラメータと感性・情動神経系の反応との関連を明らかにする。 脳波とfMRIとの同時計測によって得られた脳波α波パワーの時系列変動をEmpirical Mode Decompositionを用いて異なる周期成分に分解し、それぞれの周期成分とfMRI信号との相関を調べたところ、周期25秒以上の長周期成分のパワー変動が、報酬系神経系に属すると考えられる中脳および視床内側部の活動と特異的に相関することを見いだし、これを〈簡易深部脳活性指標〉とした。 開発した指標を用いて、感性的質感認知を高める音響情報の情報構造のパラメータを検討した結果、可聴域に隣接した16-32kHzの周波数帯域の超高周波成分の共存は、簡易深部脳活性指標を低下させるのに対して、48kHz以上の超高周波成分の共存は、簡易深部脳活性指標を増加させることを見いだした。 超高周波成分の周波数帯域に依存した効果は、齧歯類のUltrasonic vocalizationにおいて、22kHzの鳴き声と50kHzの鳴き声が、負および正の情動行動と関連していることと似ている。そこで、50kHz-vocalizationを麻酔下のラットに呈示し、側坐核のドーパミン遊離量をin vivo microdialysis法をもちいて計測したところ、コントロール条件に比較して有意に増加することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感覚情報の信号パラメータと質感認知との関連において、新たな知見を明らかにして論文として採択された。また、動物実験と組み合わされることにより、音情報の周波数と情動反応との関連の検討を順調に進行させている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に開発した簡易脳深部活性指標とさまざまな心理反応との相関を検討することにより、この指標の感性的質感認知における心理学的な意味をあきらかにする。 また、これまでの一連の研究では、同一音源に由来する可聴域成分と超高周波成分とを使用して、超高周波成分が音の質感認知に及ぼす影響を調べていた。今後は、超高周波成分が可聴域成分と異なる音源に由来する場合にも音の質感認知に及ぼす影響があるのかについて検討する予定である。加えて、従来は音楽や森林環境音のように、元来快適に感じる音の快適性がさらに高まる方向について検討をおこなってきたが、今後は騒音環境のように通常は不快感を引き起こすような可聴域成分に対して、超高周波成分の印加が、不快感を減少させる方向に作用しうるかどうかについて検討を行う予定である。 加えて、げっ歯類をもちいたUltrasound vocalizationの検討では、例数を増やすと共に、呈示する音情報の高次構造を除去した刺激による反応を検討していく予定である。
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