人間の可聴域上限を超える超高周波成分が報酬系神経ネットワークを活性化して、音の感性的質感認知を高める現象「ハイパーソニック・エフェクト」を対象として、感性的質感認知に適した評価指標を開発し、それを用いて感覚情報の質感認知に影響を及ぼす刺激パラメータと感性・情動神経系の反応との関連を明らかにしてきた。 脳波と機能的MRIの同時計測により、周期が25秒以上の緩やかなα波パワーの変化に対して深部脳の活動が正の相関を示すことを見出し、これを報酬系神経ネットワークを含む深部脳の活動状態を推定する代用指標〈簡易深部脳活性指標〉とした。簡易深部脳活性指標と心理検査STAIにより計測した状態不安尺度との間に強い負の相関があることを示した。この指標を用いて感性的質感認知を高める音響情報の情報構造のパラメータを検討し、それらが報酬系神経ネットワークの活性化に及ぼす影響を検討した結果、可聴域に隣接した16-32kHzの周波数帯域の超高周波成分の共存は、簡易深部脳活性指標をむしろ低下させるのに対して、48kHz以上の可聴域上限の2倍以上の周波数をもった超高周波成分が共存すると、簡易深部脳活性指標が増加することを見いだした。また、50kHz-vocalizationを麻酔下のラットに呈示し、側坐核のドーパミン遊離量をin vivo microdialysis法をもちいて計測したところ、コントロール条件に比較して有意に増加することが明らかになった。超高周波振動を首から上の頭部に呈示したときには簡易深部脳活性指標の変化が見られず、首から下の身体に呈示したときには、超高周波振動の付加によって簡易深部脳活性指標が統計的有意に増大した。加えて、可聴域成分とは別の音源の超高周波成分であっても、感性的質感認知に影響を及ぼすことを示すとともに、可聴域成分が不快な音源である場合、不快感を軽減することを明らかにした。
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