研究領域 | 統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用 |
研究課題/領域番号 |
22136002
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
倉智 嘉久 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30142011)
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研究分担者 |
稲野辺 厚 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00270851)
淺井 義之 沖縄科学技術大学院大学, その他の研究科, 研究員 (00415639)
古谷 和春 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40452437)
津元 国親 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70353331)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生体機能シミュレーション / 数理生物学 / 電気生理学 / 心臓 / 細胞微細構造 / プラットフォーム / フィジオーム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、次世代のフィジオーム・システムバイオロジーシミュレーション基盤を確立することにある。また理論研究と実証研究の両面から、心臓電気活動の分子レベルから組織・臓器レベルまでの統合的な理解を得ることも目的としている。 昨年度に引き続き本年度も、生体機能の多階層的モデル構築をサポートするためのプラットフォームであるPhysioDesigner、ならびにシミュレーションソフトウェアFlintの研究開発を進めた。平成25年4月に第1版のアップデート版である1.0beta4をリリースした後、7月(1.0beta5)、10月(1.0beta6)、平成26年1月(1.0beta7)と約3ヶ月のサイクルでマイナーアップデートを繰り返し、平成26年3月に1.0RC1版を公開した。これらのアップデートにより、1)ソフトウェアの操作性と安定性のさらなる向上、2)アニメーション・可視化システムの統合、3)Flint のハイパフォーマンスコンピューティング、クラウド対応、4)データベースの構成見直しと利用者の更なる利便性の向上を達成した。 一方、心臓の拍動リズム制御(特に心臓徐脈)に関わる分子機構を実験的に解析した。G蛋白質シグナル伝達を制御するRGS4の機能がムスカリン(M2)受容体依存的である可能性を示す新たな知見が得られた。また、心筋細胞の活動電位発生機構の頑健性とその破綻という観点から、遅延性整流性カリウムチャネル(hERGチャネル/IKrチャネル) 電流を標的とする薬物による薬物誘発性不整脈のモデル・シミュレーション解析を実施した。薬物のhERGチャネル開口促進作用は、薬物による催不整脈作用を抑制する可能性が示唆された。さらに酵母の生育という指標を用いた新しい評価系を確立し、遅延整流性カリウムチャネル(KCNQ1/Iksチャネル)の遺伝子変異導入や薬物投与によるカリウムチャネル分子機能変化を高効率に評価することを可能にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統合環境プラットフォームソフトウェアPhysioDesigner/Flintは一般公開に至っており、領域内外の研究者が常に最新のソフトウェアを利用できる体制が整えられている。利便性と安定性を高める改良を続けることで、ユーザーからのフィードバックも得られ、開発は順調に進展している。 また、心臓電気現象の統合研究においても着実な進展が見られる。心臓の拍動リズム制御に重要な役割を果たすイオンチャネルの機能解析が進み、心臓徐脈に関わるシグナル伝達制御に関する新たな知見も得られた。さらに、酵母を用いたイオンチャネル機能評価システムが有効に機能し、イオンチャネルの機能異常をもたらす遺伝子異常や薬物を高効率に評価することが出来るようになった。数理モデルを用いたin silico解析と組み合わせることにより不整脈のリスクについて効率的に予測することが可能になりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究は計画通り順調に進行しており、特記する問題点は生じていない。今後も研究計画に沿って研究を実施することで目的を達成できると考えている。 今後、PhysioDesigner/Flintの研究開発は、インターフェイスの向上,大規模モデリングに対するパフォーマンスの向上、シミュレーション結果の可視化アプリケーションの拡充が中心となる。これにより、モデリングからシミュレーションならびに結果表示に至る全過程で多階層生体機能学研究をサポートできる基盤システムが完成する。また、チュートリアルなどを開催し、成果を領域内外へ積極的に発信する。 一方、心臓徐脈に関わるG蛋白質シグナル伝達制御に関し、RGS4の機能がムスカリン(M2)受容体依存的である可能性を示す新たな知見が得られた。その詳細な分子機構を明らかにするための更なる実験を行うと共に、数理モデルの構築を試みる。また、遅延整流性カリウムイオンチャネルの電気生理学、薬理学的な解析を引き続き行い、プラットフォームソフトウェアPhysioDesigner/Flintを用いたシミュレーション解析を併用することで不整脈の発症や薬物治療に関する理解を深める。
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