研究領域 | 統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用 |
研究課題/領域番号 |
22136005
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木下 賢吾 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (60332293)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 構造モデリング / 分子動力学法 / 多階層シミュレーション / 生命情報科学 / 膜タンパク質 / イオンチャネル |
研究概要 |
高精度にイオン透過率を計算するには、精度の高いモデル構造と分子レベルの計算が必要になる。 モデル構築に関しては、チャネルタンパク質が疎水性の脂質二重層の中に極性を持つポアを埋め込まれている特殊性を考慮した配列アラインメントが要求される。また、構築したモデルの妥当性を検証するための評価関数も重要になってくる。これに対して我々は、タンパク質の原子レベル構造評価関数を構築し、ポアの構造を重視した配列アラインメント手法の開発の前段階として、ヒトのプロトンチャネルであるVSOPの構造モデリングをNa+チャネルの電位感受性ドメインを鋳型として行った。この手法の精度はその後の分子動力学(MD)シミュレーションにより確認できた。現在、これらの手法の統合と自動化を行い、アミノ酸配列からチャネルタンパク質に特化したモデリングからMDまで行うパイプラインづくりを進めている。 分子レベルの計算に関しては、MDの計算プロトコルの最適化を行い、144CPUコアの計算機で1nsの計算を0.5時間で達成できるようになった。その結果、KvAPに関しては、複数の電圧、複数のイオン濃度での計算を行い、合計9.1μ秒のシミュレーションを行う事ができ、実験値とも整合性の高い電流電圧曲線を得る事ができた。この結果を利用して、情報科学的に新しい解析手法として、遷移状態グラフに基づいた解析手法の開発を行った。この手法では、従来MDの拡張として利用が検討されていたBDなどで問題となっていたモデルの恣意性に影響されること無く、高精度にイオン透過率の計算ができる可能性が見えてきた。また、上の階層にシミュレーション結果を反映させるために、電圧依存性の計算手法の見直し、変異体作成による電圧依存性のシミュレーションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本グループでは、チャネルタンパク質のイオン透過率を分子レベルのしミレーションを用いて定量的に計算する手法の開発を行ってきた。まず、既に構造が解かれているタンパク質としてKv1.2を対象として、長時間MD(分子動力学法)でデータを行い、その結果を情報科学的に解析する新しい手法(状態遷移グラフ解析)の開発を行う事ができた。当初、MDの先としてBD(ブラウン動力学法)での透過率の見積もりを想定していたが、より簡便にかつBDモデル特有の恣意性を入れる事無く計算できる手法となる可能性が見えてきたので、今後はこの独自手法を中心に定量的な透過率の評価手法の確立をめざす。また、モデル構造でのイオン透過率の計算のために、高精度モデリング手法の開発を行い、hERG, VSOP等に適用し、MDを開始した。hERGは長いループの構造決定の問題が残っているが、VSOPに関しては、順調に計算がすすんでいる状況である。また、共同研究として複数の膜タンパク質でのシミュレーションを開始し、本手法の適用を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
後半の2年における課題は、(1)遷移状態グラフからの長時間シミュレーション相当の結果を得る手法の確立、(2)モデルの高精度化及びモデル構築の自動化及び評価関数の改良、(3)電圧依存性での高精度化(0V付近の振る舞いの改善)、(4)変異による電圧依存性変化のシミュレーション、(5)共通インターフェースへの組み込みの5つである。 最終年度は、(4)に関しては、本プロジェクトの最終的なゴールの一つである、分子階層から表現型を通してシミュレーションすることへの対応として、分子レベルでの変異がイオンの透過率に及ぼす影響を定量的にシミュレーションする。ここでは、今まで開発してきたモデル構築、MD+遷移状態グラフ解析、高精度のI-Vカーブの計算を総動員し計算を行う。現在では薬剤との対応を見る観点からhERGをターゲットして考えているが、hERG特有の長いループのモデル構築が順調に進まない場合は、細胞レベルのシミュレーションで考慮しているタンパク質にターゲットを変更する事も検討する。(5)に関しては、全体を1つのパッケージとして出す事が本プロジェクトの重要なゴールであるので、Garuda allianceなど共通インターフェースの仕様に則って、最初の4年間で開発を行った手法も含めて、研究者間で共有できるようにドキュメントも含めた整備を行い、公開を目指す。
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