計画研究
心臓のリモデリング時の不整脈基質形成機序を解明するため、昨年度に引き続いてCa^<2+>濃度上昇で直接活性化される陽イオンチャネルTRPM4の活性化機序や発現変化に関する検討を行った。(1)細胞内成分をできるだけ保存した生理的状態に近い条件下で、TRPMチャネルのCa^<2+>感受性の再評価を行った。膜小孔形成作用のあるβ-escinやCa^<2+>透過小孔を形成するionomycin処置によって細胞内遊離Ca^<2+>濃度を変化させて得たTRPM4チャネル活性のCa^<2+>濃度依存性曲線から、このチャネルの十分な活性化がマイクロモル濃度以下の範囲(Kd値:数百nM)で起こることが明らかとなった。(2)電位依存性CaチャネルをTRPM4チャネルと共発現し、前者を介したCa^<2+>流入と後者の活性化の定量的な関係を調べた。その結果、心房筋の活動電位持続時間に当たる100ms程度のCa^<2+>流入単独によって最大値の50%程度のTRPM4チャネルの活性化が起こること、更に、これより短いCa^<2+>流入であっても連続誘発することで、TRPM4チャネルの活性化が長時間遷延することが明らかとなった。(4)心房筋の不死化細胞株HL-1を液性心肥大因子アンギオテンシンIIで数日間前処置するとTRPM4チャネル蛋白質の発現が数倍に増加し、これに伴う不規則な自発的活動電位の出現と静止膜電位の脱分極が観察された。これらの変化は、TRPM4の選択的阻害薬9-phenathrolzeの投与でほぼ完全に消失した。以上の結果から、リモデリング心におけるCaハンドリングの異常とTRPM4発現の増加が、相乗的に膜の異常興奮を誘発している可能性が強く示唆された。今後は、上記のアプローチを用いて生理的条件下におけるTRPM4チャネルのキネティックスの詳細な測定・解析を行い、数理モデル(全細胞活動電位モデル)に組み込むのに必要なパラメーターを確定し、リモデリング時の催不整脈性への寄与の度合いをシミュレーションによって定量的に検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
心リモデリング時に高頻度でみられるCa^<2+>依存性不整脈の発生機序に関して、これまで実験上の困難から著しく過小評価されていたTRPM4チャネルの活性化が、心筋細胞の生理的Ca^<2+>変動範囲内で起こることを明らかにし、不整脈誘発の主要因となりうることを示すことができた。また、心房筋細胞のモデル細胞株HL-1を用い、心肥大促進因子アンギオテンシンIIによって、TRPM4の異常活性化を介した膜の不規則な異常興奮が起こることを明らかにした。更にこれらの実験と並行して、不整脈基質形成におけるTRPチャネルの役割に関する独自の見解を発表することができた(著書2)。
TRPM4チャネルのCa^<2+>活性化キネティクスを詳細に検討し、全細胞活動電位数理モデルに組み込む作業を進める。更に、数理モデルに基づいたシミュレーションで予測される結果の妥当性を検証するため、長期ストレス負荷による心肥大・心不全のモデル動物作成を進め、細胞系の実験から示唆されたTRPM4の過剰活性化と催不整脈性の相関について、細胞レベル、個体レベルで検討する必要がある。
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