研究領域 | 統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用 |
研究課題/領域番号 |
22136008
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
井上 隆司 福岡大学, 医学部, 教授 (30232573)
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研究分担者 |
仲矢 道雄 九州大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (80464387)
入部 玄太郎 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 講師 (90284885)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 不整脈 / ストレス / 心リモデリング / イオンチャネル / TRP蛋白質 / Caハンドリング異常 / 神経体液性因子 / 圧負荷 |
研究概要 |
本研究では、代謝・機械的ストレスによる心筋組織の機能改変がもたらす不整脈基質形成機序の探索と解明を目的として、ストレス応答Caチャネル分子TRP蛋白質に着目した実験と解析を行ってきた。その結果、発現系や不死化心房筋由来細胞HL-1を用いた研究によって、Ca2+依存性陽イオンチャネルTRPM4の高いCa感受性と発現増加が、不整脈を引き起こす新たな基質となることを証明してきた。H25年度の特筆すべき進捗としては、 (1)当新学術領域で開発したシミュレーションプラットホームPhysioDesignerを用いて、TRPM4チャネルを組み込んだ心筋活動電位モデルの記述を行い、TRPM4の発現量や機能の変化が心筋興奮性及ぼす影響を定量的に再現することができた。 (2) ホスファチジルイノシトール2リン酸(PIP2)の膜含量変化が、このチャネルの活性やキネティクスを変化させることを、膜電位依存性ホスファターゼVSPを用いたFRET実験によって見出した。また連鎖解析によって見出された家族性房室伝導障害性のtrpm4遺伝子変異において、PIP2感受性が劇的に変化しており、これにより不整脈性変化が生じている可能性を見出した。 (3)もう一つの心不整脈基質分子TRPC6に関して、PIP2によるゲーティング制御と受容体刺激時のPIP2代謝キネティクスを結合したモデルを作成し、膜PIP2量変動時のTRPC6チャネル活性変化のダイナミクスを定量的に記述することに成功した(Itsuki et al., J Gen Physiol., 2014)。 以上の結果は、心リモデリング時に生じる心不整脈の病態の理解に、全く新しい定量的な理論的枠組みを提供するものである。今後はこれらのモデルの精緻化を継続し、その臨床的有用性を高めることが重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心筋細胞のリモデリング時のTRPM4チャネルキネティクスデータを取得し、既存の心筋興奮数理モデル(Luo Rudy 2000; Nygren)に組み込んで、催不整脈性変化を再現できた。また、同じモデルを当新学術領域で開発したPhysioDesignerで記述することができた。更にFRETを用いた膜PIP2量とTRPM4電流の同時測定に成功し、膜PIP2量を急速に変化させた時の、TRPM4チャネルのキネティクスデータを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
心筋活動電位(AP)と連携したTRPM4チャネル数理モデルが完成したので、論文等の形で公表する。また、もう一つの重要なTRPM4チャネル制御因子PIP2に関しては、昨年度に論文発表したPLC共役型受容体-膜PIP2-TRPC6チャネル数理モデル(Itsuki et al., J Gen. Physiol., 2014)を参考に、TRPM4チャネルのAPモデルの精緻化を図る。もう一つの不整脈基質分子TRPC6についても、TRPM4のAPモデルをテンプレートとして、モデルへの組み込みを図る。最後に、これまで確立したモデルを利用して、動物実験から得られたデータを用いた数理モデルの完成を目指す。
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