研究領域 | 統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用 |
研究課題/領域番号 |
22136010
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
本荘 晴朗 名古屋大学, 環境医学研究所, 准教授 (70262912)
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研究分担者 |
佐久間 一郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50178597)
神谷 香一郎 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (50194973)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 心臓電気生理 / 不整脈 / 興奮伝播 / 光学マッピング / ギャップ結合 / 心房細動 |
研究概要 |
本研究の目的は、心臓における興奮伝播ダイナミクスを定量的に解析するとともに、その破綻による頻拍・細動など重篤な不整脈の発生・維持機構を解明し、心臓電気興奮の数理モデル構築に必要な基礎的情報を提供することである。 1. 心筋細胞間電気結合の変化が心筋興奮伝導特性とスパイラル・リエントリーのダイナミクスに及ぼす影響について、ウサギ摘出灌流心臓の活動電位光学マッピング実験で検討した。心筋組織における細胞間電気結合は、細胞外通電に伴う電気緊張電位変化の空間定数を測定することにより評価した。心室筋における興奮波の局所伝播速度と興奮波面の曲率と間には直線的な相関関係が認められ、興奮波面の湾曲が著しくなる程、興奮伝播速度が低下した(曲率効果)。心筋細胞間電気結合の薬理学的促進は、平面波の伝播速度を増加させる一方、曲率効果を増強し、強く湾曲した興奮波の伝播をかえって抑制することが判明した。また、細胞間結合の促進は、心室スパイラル・リエントリーの旋回中心付近における興奮波の局所的な伝導ブロックを生じ、リエントリーの早期停止を促進することが明らかになった。 2. 心筋壁に厚みのある心室筋や、心内膜面に櫛状筋が存在する心耳における興奮波伝播は、こられの解剖学的構築の影響を受ける。本研究では、心臓における3次元興奮伝播を解析するため、心腔内に挿入する内視鏡と2組の蛍光色素励起光源/蛍光画像撮影用高速ビデオカメラを組み合わせ、心筋活動電位光学シグナルを心外膜面/心内膜面で同時マッピングすることができるシステムを構築した。本システムを用いて、ヒツジ摘出灌流心臓の心房圧負荷誘発心房細動の興奮伝播について解析し、左心房におけるリエントリーと異所性興奮生成の両者が心房細動の持続に関与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
心筋活動電位光学マッピング実験に用いる高速カメラシステムに不具合が生じたため、本年度に行う予定であった、心臓スパイラル・リエントリー制御に関する研究のうち、心筋イオンチャネル遮断の効果を検討する研究の一部を、来年度も継続して行うこととした。尚、機器の調整により高速カメラシステムの不具合は既に解消し、動物実験に使用できることを確認している。その他の研究項目については、当初の研究計画に沿って研究が進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
1. 心臓スパイラル・リエントリー制御に関する研究:内向き整流K電流(IK1)の薬理学的遮断が、心室筋の興奮伝導特性とスパイラル・リエントリーのダイナミクスに及ぼす影響について、ウサギ摘出灌流心臓の活動電位光学マッピング実験で検討する。得られたデータを基にして、中沢班(A02-5)の心臓興奮3次元シミュレーションや天野班(A01-3)の多階層シミュレーションを行い、IK1遮断がスパイラル・リエントリーの停止を促進する電気生理学的機序を明らかにする。 2. 病態心における不整脈発生基質形成に関する研究:心室頻拍・細動が繰り返し発生する完全房室ブロック除脈ウサギelectrical stormモデルや、拡張型心筋症様の心機能低下を呈し、心不全代償期に不整脈突然死が頻発するNRSF(心筋胎児型遺伝子の転写を抑制する転写因子)遺伝子改変(dn-NRSF-Tg:優性抑制変異体心筋特異的発現)マウスを用いて、心筋活動電位波形や不応期、興奮伝播の変化やその動的特性など、頻拍・細動の発生・維持にかかわる電気生理学的基盤(不整脈基質)について解析する。心房細動については、急性心筋虚血に伴う心房筋の電気生理学的変化と、心房細動の発生・維持との関係について、活動電位光学マッピング・システムを用いて検討する。また、心房筋に高頻度刺激を持続的に与えて慢性心房細動モデルを作成し、心房筋の電気的リモデリングや心筋構築の変化が、心房細動の持続にどのような役割を果たすかについて検討する。
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