研究領域 | 統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用 |
研究課題/領域番号 |
22136011
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
中沢 一雄 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (50198058)
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研究分担者 |
原口 亮 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 研究員 (00393215)
清水 渉 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (50399606)
芦原 貴司 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (80396259)
池田 隆徳 東邦大学, 医学部, 教授 (80256734)
井尻 敬 独立行政法人理化学研究所, 生物情報基盤構築チーム, 基礎科学特別研究員 (30550347)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 不整脈 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
1)不整脈の機序解明:光学マッピング実験などにより得られるデータを心臓モデルに反映させる技術開発を、本荘班(A02-4)と協力して行った。心臓モデルにおけるシミュレーションと光学マッピング実験のマッチングは、致死性不整脈現象の基本的メカニズムとなるスパイラルリエントリーの解析には特に有効であり、その成果としてKatoらから論文が掲載された。 2)慢性心房細動に対するアブレーション治療のシミュレーション:心房細動は、心房で異常な興奮旋回が起こる不整脈であり、脳梗塞や心不全の主な原因とされる。慢性心房細動に対し、心房内の双極電極で記録される分裂電位(CFAE)を標的とするカテーテルアブレーション(心筋焼灼)の有用性が報告されるようになった。線維芽細胞CFAE仮説によるヒト慢性心房細動の数学モデルを構築し、コンピュータシミュレーション実験を実施した。CFAEおよびCFAE標的アブレーションのメカニズムを解明し、その臨床有用性に理論的根拠を示した。 3)幾何制約に基づく実時間の簡易心臓拍動シミュレーション:心臓の拍動は心臓を構成する心筋細胞がそれぞれ電気的に興奮し収縮することで実現される。さらに、心臓には線維走向があり、それぞれの心筋線維が異なる方向に収縮することが積み重なって心臓全体の拍動をつくりだす。しかし、既存の力学モデルに基づくシミュレーションでは膨大な計算が要求される。そこで、心臓拍動のリアルタイムシミュレーションの実現を目指し、コンピュータグラフィックスの手法を応用した計算負荷の軽い新たなシミュレーション技法を開発した。提案法は、局所領域を変形させ、その形状を満たすよう全体形状を最適化する幾何制約モデルを応用したものである。心臓の電気興奮と収縮の関係を簡便に表現できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果は基本的には従来技術の延長線上であり、特に本荘班 (A02-4)と協力した光学マッピング実験データを心臓モデルに反映させる技術開発も比較的順調に進んでいると言える。その他、慢性心房細動に対するアブレーション治療のシミュレーション研究や、幾何制約に基づく実時間の簡易心臓拍動シミュレーション研究、刺激伝導系の構造を単純化した1次元の伝導モデルに基づく房室伝導解析など、関連するシミュレーション研究についても成果を出している。さらに、不整脈の機序解明の研究として、倉智班(A01-1)との連携による、Naチャネルの局在化を想定したPhase-2リエントリーのシミュレーションを行い、Brugada 症候群との関連を調べる研究がある。同じく、蒔田班(A02-1)との連携で、心筋のギャップ結合におけるコネキシン(connexin)と呼ばれる膜蛋白質遺伝子変異によるプルキンエ不整脈の発症についても精力的に進めており、近々、成果発表の予定である。一方、薬物動態とリンクした薬物性不整脈のシミュレー ション研究が実現できなかったことは、異分野連携による共同研究に対する困難さの課題として残されている。また、具体的臨床応用に向けた研究に繋げることは、依然として大きな課題である。
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今後の研究の推進方策 |
多階層の生体機能学として、特に薬物循環動態を反映した心臓の興奮伝播過程シミュレーションの実現をめざし、最終的には研究成果を「システムバイオロジープラットフォーム」上で稼働可能とすることが目標である。今後の主な研究方針として、大きく下記の6つ程度に分類している。1)不整脈の機序解明、2)除細動メカニズム、3)刺激伝導系の解析、4)不整脈心臓収縮の簡易表現、4) 遺伝子変異による致死性不整脈の発症、6)研究成果の「システムバイオロジープラットフォーム」への貢献。そこで、「不整脈の機序解明」および「除細動メカニズム」については、心室形状モデルを用いたスパイラルリエントリーのフィラメント解析、および、2次元あるいは3次元の単純形状モデルを用いた冷却除細動シミュレーションを中心に研究を進める。「刺激伝導系の解析」は、心房細動のレートコントロールなど、より具体的な臨床応用に向けた研究に繋げる予定である。「不整脈心臓収縮の簡易表現」では、1)の心室形状モデルで計算した不整脈の興奮伝播データに対して心臓の収縮を表現し、簡易に左室駆出率などを算出したいと考えている。「遺伝子変異による致死性不整脈の発症」については、前述のように、心筋のギャップ結合における膜蛋白質遺伝子変異によるプルキンエ不整脈発症のシミュレーション研究を行う。最終年度、これらの研究成果を、「システムバイオロジープラットフォーム」上で実現できるように貢献を行う予定である。
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