計画研究
脳内における異常タンパク質の増加は、脳機能の恒常性維持に破綻をきたし疾患発症に繋がることから、脳には異常タンパク質に応答するホメオスタシス機構が存在する。その一つとして本研究では、脳内の異常タンパク質でありアルツハイマー病(AD)発症原因分子であるAβ量を制御するガーディアン分子Kallikrein-related peptidase 7(KLK7)に着目する。これまで、アストロサイトが細胞特異的にKLK7制御機構を有する可能性を見出しているが、その詳細な分子機構は明らかではない。そこで本研究では、KLK7を介したアストロサイト特異的脳内Aβホメオスタシス機構の解明と、DNAアプタマーによる脳特異的KLK7制御を研究目的とし、脳内Aβホメオスタシス機構の意義を解明する。これまで、アストロサイトに対してAβを短期間投与して刺激を行うと、KLK7発現が上昇することがわかっている。そこでKLK7発現制御機構解明のために、Aβ刺激に応答するKLK7上流のプロモーター領域を探索したところ、SOX9結合領域が関与する可能性が明らかになった。またプライマリーアストロサイトに対し、SOX9をshRNAでノックダウンするとAβ刺激によるKLK7発現量の増加がキャンセルされること、逆にレンチウイルスを用いてSOX9を過剰発現するとAβ刺激がなくともKLK7発現量が上昇することを見出した。これらの結果から、アストロサイトにはAβをセンシングしたのち、SOX9を介したKLK7転写制御機構があることが示唆された。今後、その詳細なメカニズムを解明していきたい。また、SOX9を介したKLK7発現制御機構が生体内でも起きているか、またそれがAD病態形成制御に寄与しうるかについても検証していきたい。
2: おおむね順調に進展している
Aβ量を制御するガーディアン分子というKLK7の役割において、アストロサイトがAβを受容しKLK7発現を上昇させるメカニズムが少しずつ明らかになってきたと考えられる。具体的な転写因子を同定することができたことは、今後の制御メカニズム解析の基盤となると考えている。
SOX9を介したKLK7発現制御機構の詳細、およびKLK7を介したAβホメオスタシスへの影響を、プライマリーアストロサイトを用いるだけでなく、ADモデルマウスを用いたin vivo解析によっても検討していきたい。またAβを用いて短期ではなく慢性的に刺激すると、KLK7発現量が減少するという知見も得ている。後期AD患者脳内を模倣しうると考えられる慢性Aβ刺激下でのKLK7発現制御機構にも着目し、検討を行いたい。
すべて 2023 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~neuropsc/tomita/