研究領域 | パラサイトミメティクス:寄生虫が持つ高度機能因子の同定とその利用 |
研究課題/領域番号 |
22H05057
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
後藤 康之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (50553434)
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研究分担者 |
小南 友里 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (30803572)
藤井 渉 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (40708161)
中尾 洋一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60282696)
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研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
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キーワード | リーシュマニア / SIRPA / ATP6V0D2 / BAFF / FURIN |
研究実績の概要 |
本研究では、リーシュマニア原虫が宿主マクロファージの性質を改変する能力に焦点を当て、その分子機構を明らかにすることを目的としている。2022年度は、マクロファージの性質変化に関して、とくに感染誘導性の赤血球貪食亢進に焦点を当てた。赤血球貪食が亢進した感染マクロファージではまず多核化がおこるが、その関連分子としてATP6V0D2を同定した。同時に、感染マクロファージではSIRPAの発現低下がおこり、これらが複合して赤血球貪食が亢進することが示唆された。マクロファージにおけるSIRPAの発現低下はLPS刺激時にも起こるが、この場合はタンパク質自体の発現低下が関与する。一方、原虫感染時にはタンパク質の総量には顕著な低下が見られない一方、膜貫通タンパク質であるSIRPAが感染によって細胞外、細胞内の両方で切断を受けることが確認された。また、その切断の一部にADAM10が関与するものの、他のプロテアーゼがより大きな関与を担っていることも示唆された。LPS刺激と原虫感染にはマクロファージの活性変化をもたらすという点でいくつか共通点がある一方、とくにATP6V0D2の発現制御に関しては全く逆の制御が行われることも明らかとなってきた。現在、原虫因子の分画ならびにマクロファージを用いたバイオアッセイの開発を進めており、ATP6V0D2やSIRPAの発現制御を行う因子や、マクロファージのエピジェネティックな変化を誘導する因子を探索している。BAFF切断因子の同定に関しても、FURIN様活性を持つ因子の探索のために新たにFRETを取り入れたアッセイの確立に成功した。また、FURIN様活性を持つ候補分子もいくつか同定できている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マクロファージにおけるATP6V0D2の機能については、現在でも不明な点が多い。また、発現制御メカニズムはとくに不明な点が多い。リーシュマニア原虫感染はATP6V0D2の発現上昇を誘導する数少ないモデルであり、今回そのモデルを用いることによってATP6V0D2の機能の一端を明らかにできた。また、その成果は論文として報告できた。加えて、SIRPAの制御機構も明らかになりつつあり、また原虫因子の分離ならびに活性評価システムにも一定の進展が見られた。以上のことより、おおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には原虫感染時におけるATP6V0D2の発現制御に関わる因子を探るために、Atp6v0d2をノックダウンした原虫感染マクロファージのトランスクリプトーム解析を行った。その過程で、関連する転写因子や下流因子の有望な候補を見つけることに成功している。そこで、2023年度はそれら因子の関与について詳細を解析するとともに、とくに転写因子やAtp6v0d2のレポーターアッセイの確立を進めて、関与する原虫因子の同定を加速させる。SIRPAについては、現在のところ感染による分子切断をELISAまたはウエスタンブロッティングにより解析しているが、前者は高額なキットが必要であり、後者はハイスループットな解析に適していない。そこで、SIRPAの切断をより効率的に解析できる細胞アッセイの確立を目指す。BAFF切断因子の同定に関しては、新たにFRETを取り入れたアッセイの確立に成功している。今後は原虫タンパク質分画を用いた候補分子の同定を行うとともに、ノックアウト原虫の作製を通した評価を進めていく。
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