吸血節足動物の唾液～薬理学的効能の解析と利活用～

2023 年度 実績報告書

• 研究領域: パラサイトミメティクス：寄生虫が持つ高度機能因子の同定とその利用
• 研究課題/領域番号: 22H05059
• 研究機関: 北里大学
• 研究代表者: 八田 岳士 北里大学, 医学部, 准教授 (00455304)
• 研究期間 (年度): 2022-05-20 – 2025-03-31
• キーワード: 外部寄生虫 / 唾液分子 / 産業応用 / ヒスタミン結合タンパク質 / マダニ / 昆虫細胞分泌発現系 / piggyBac

研究実績の概要

マダニは長期間の吸血において多種多様な薬理物質を宿主体内に放出する。本研究は、①抗アレルギー物質、②抗血液凝固物質、③血管新生抑制物質に関連するマダニ唾液分子について、分子機能・構造など科学的根拠に裏付けられた新薬創製のシーズを得ることを目的としている。本年度は、ヒスタミン結合蛋白質の機能解析を主に行った。フタトゲチマダニ唾液腺発現遺伝子のESTデータベースに対し、HLCBP1をクエリとしたBlastn解析を行い、E-valueが0.00001未満となる遺伝子10個を選出した。これらについて、唾液腺におけるmRNA発現解析を行ったところ、8個の遺伝子で吸血刺激による発現の上昇を認めた。遺伝子配列をもとに機能予測を行ったところ、S02086A-40_F06の予測アミノ酸配列に、Histamine結合ドメインが保存されていることが分かった（以下、HLHBP1とする）。HLHBP1遺伝子ノックダウン（KD）マダニにおける吸血や産卵などの表現型解析を実施したところ、対照群よりも吸血時の成長が抑制される現象を認めたが飽血時体重は有意に重くなっていた。予備データではあるが、刺咬部位皮膚では肥満細胞およびT細胞が顕著に集簇していたことから、対照群とは異なる炎症性変化が生じている可能性がある。次に本分子の組換えタンパク質の発現系の構築を行った。昆虫細胞系での高レベル分泌発現を企図し、まずリーダーシグナルとしてメリチンを融合した分子キメラとして塩基配列をデザインした。本ベクターをSf9細胞へ導入し、1週間薬剤選択してから培養上清中を解析したところ、HLHBP1の分泌発現を確認することができた。今後、高レベル発現を企図して、本キメラ遺伝子をトランスポゾンpiggyBacの末端逆位配列の間に導入したベクターを構築し、ヘルパーとともにトランスフェクトしたSf9細胞を作出することを計画している。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

HLCBP1の組換えタンパク質の機能確認が進んでいない。そのため、次点で進めていたHLHBP1に注力することとなった。昆虫細胞を用いた安定発現系の構築に至ったが、今後先行していたHLCBP1の分子機能解析についても進めていく。このため、当初計画とは異なる手段をとることとなったため、やや遅れているという評価となった。

今後の研究の推進方策

HLHBP1のpiggyBacを利用した高レベル分泌蛋白質発現系の構築をベンチマークとして、解析の遅れているHLCBP1についても分子機能解析を進める。具体的には以下の実験系を進めていく予定である。
①抗アレルギー物質の機能解析（特にHLHBP1）：マダニ唾液分子発現Sf9細胞の培養上清、または精製タンパク質を用い、炎症性メディエーターに対する結合能について評価を行う。
②抗止血物質の解析：上記と同様の培養上清を用い、APTT法やPT法などのクロット析出時間を指標に評価する。
③血管新生抑制物質の解析：上記と同様の培養上清を用い、HUVECなどの血管内皮細胞の
増殖率や脈管形成率を指標に評価する。

研究成果

• [雑誌論文] RNA activation in ticks (2023)
  • 著者名/発表者名: Kwofie Kofi Dadzie、Hernandez Emmanuel Pacia、Anisuzzaman、Kawada Hayato、Koike Yuki、Sasaki Sana、Inoue Takahiro、Jimbo Kei、Mikami Fusako、Ladzekpo Danielle、Umemiya-Shirafuji Rika、Yamaji Kayoko、Tanaka Tetsuya、Matsubayashi Makoto、Alim Md Abdul、Dadzie Samuel Kweku、Iwanaga Shiroh、Tsuji Naotoshi、Hatta Takeshi
  • 雑誌名: Scientific Reports 巻: 13 ページ: -
  • DOI: 10.1038/s41598-023-36523-4
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Food- and vector-borne parasitic zoonoses: Global burden and impacts (2023)
  • 著者名/発表者名: Anisuzzaman、Hossain Md. Shahadat、Hatta Takeshi、Labony Sharmin Shahid、Kwofie Kofi Dadzie、Kawada Hayato、Tsuji Naotoshi、Alim Md. Abdul
  • 雑誌名: Adv Parasitol. 巻: 120 ページ: 87～136
  • DOI: 10.1016/bs.apar.2023.02.001
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] The Development of a Compact Pulsed Power Supply with Semiconductor Series Connection (2023)
  • 著者名/発表者名: Zaizen Shohei、Asami Kyohei、Furukawa Takashi、Hatta Takeshi、Nakamura Tsubasa、Sakugawa Takashi、Ueno Takahisa
  • 雑誌名: Electronics 巻: 12 ページ: 4541～4541
  • DOI: 10.3390/electronics12214541
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] A possible circulation of a dominant Dibothriocephalus nihonkaiensis haplotype in Japan revealed by molecular analysis of clinical tapeworm samples (2023)
  • 著者名/発表者名: Ladzekpo Danielle、Kwofie Kofi Dadzie、Kawada Hayato、Mikami Fusako、Tsuji Naotoshi、Iwanaga Shiroh、Dadzie Samuel Kweku、Hatta Takeshi、Ishino Tomoko
  • 雑誌名: Parasitology International 巻: 96 ページ: 102771～102771
  • DOI: 10.1016/j.parint.2023.102771
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] マダニ唾液中に見出されたHLCBP1の計算化学的機能予測 (2023)
  • 著者名/発表者名: 川田逸人, 佐々木紗己, 小池優貴, 井上貴裕, 神保恵, 三上房子, 辻尚利, 八田岳士
  • 学会等名: 第75回日本衛生動物学会大会
• [学会発表] 実験室継代ワクモを用いた生物活性試験 (2023)
  • 著者名/発表者名: 井上 貴裕、水谷 恵子、小池 優貴、佐々木 紗己、神保 惠、川田 逸人、吉田 知生、小田 憲司、辻 尚利、八田 岳士
  • 学会等名: 第166回日本獣医学会大会
• [学会発表] 2022年度神奈川県立津久井湖城山公園マダニ調査報告 (2023)
  • 著者名/発表者名: 神保 惠, Danielle Ladzekpo, 川田 逸人, Meryem Behri, 小池 優貴, 佐々木 紗己, 佐々木 萌可, 中島 政斗, 上松 史尚, 松田 洋志郎, 三角 修斗, 三上 房子, 辻 尚利, 八田 岳士
  • 学会等名: PPEZ2023
• [学会発表] フタトゲチマダニ唾液腺発現遺伝子における新規有用物質の探索 (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐々木 萌可、川田 逸人、小池 優貴、佐々木 紗己、中島 政斗、上松 史尚、三角 修斗、青島 更紗、砂川 滉、Kofi Dadzie Kwofie、 Meryem Behri、Danielle Ladkzepo、神保 恵、井上 貴裕、三上 房子、辻 尚利、八田 岳士
  • 学会等名: PPEZ2023
• [学会発表] マダニ刺咬部位における皮膚トランスクリプトーム (2023)
  • 著者名/発表者名: 上松 史尚 、川田 逸人、小池 優貴、佐々木 紗己、佐々木 萌可、中島 政斗、三角 修斗、青島 更紗、砂川 滉、Kofi Dadzie Kwofie、 Meryem Behri、Danielle Ladkzepo、神保 恵、井上 貴裕、三上 房子、辻 尚利、八田 岳士
  • 学会等名: PPEZ2023
• [学会発表] 神奈川県立津久井湖城山公園にて採取されたマダニのSFTS病原体保有調査 (2023)
  • 著者名/発表者名: 中島 政斗、神保 恵、Danielle Ladkzepo、川田 逸人、小池 優貴、佐々木 紗己、佐々木 萌可、上松 史尚、三角 修斗、青島 更紗、 砂川 滉、Kofi Dadzie Kwofie、Meryem Behri、井上 貴裕、三上 房子、辻 尚利、八田 岳士
  • 学会等名: PPEZ2023
• [学会発表] Demonstrating the presence of RNA activation in Ticks (2023)
  • 著者名/発表者名: Kofi Dadzie Kwofie, Emmanuel Pacia Hernandez, Anisuzzaman, Hayato Kawada, Yuki Koike, Sana Sasaki, Takahiro Inoue, Kei Jimbo, Fusako Mikami, Danielle Ladzekpo, Rika Umemiya-Shirafuji, Kayoko Yamaji, Tetsuya Tanaka, Makoto Matsubayashi, Md Abdul Alim, Samuel Kweku Dadzie, Shiroh Iwanaga, Naotoshi Tsuji, Takeshi Hatta
  • 学会等名: PPEZ2023
• [学会発表] ワクモの嗅覚応答試験 (2023)
  • 著者名/発表者名: 井上 貴裕、國貞 葉菜子、吉田 知生、水谷 恵子、稲垣 歩、上野 崇寿、小田 憲司、川田 逸人、辻 尚利、古川 隼士、八田 岳士
  • 学会等名: 第68回日本応用動物学会大会
• [学会発表] 吸血ダニ類に対する動物経口剤の駆除効果 (2023)
  • 著者名/発表者名: 八田 岳士
  • 学会等名: 第75回日本衛生動物学会大会 殺虫剤研究班
  • 招待講演