研究領域 | 微生物が動く意味~レーウェンフックを超えた微生物行動学の創生~ |
研究課題/領域番号 |
22H05066
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
中根 大介 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (40708997)
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研究分担者 |
菅 哲朗 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (30504815)
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研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
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キーワード | 感染 / 共生 / 光学顕微鏡 / べん毛 / 微小流体デバイス / ドリル / 巻き付け |
研究実績の概要 |
感染・共生性の細菌は新しい運動様式が報告されている。べん毛というらせん繊維構造を自身の体に巻き付けて、トンネル掘削機のように推進する。このドリル運動にはどのような役割があるのだろうか?研究代表者らは「狭小空間」をキーワードに研究を実施した。ドリル運動をする細菌は、感染・共生関係を成立する際、細く狭い空間をドリル運動で突破すると予測した。このような狭小空間を再現するためにクリーンルームにて微小流体デバイスを作成した。幅・高さが1マイクロメートルの細く長いトンネル状の空間に細菌を閉じ込め、そのときに運動性がどのように変化するのかを可視化した。ドリル運動をおこなうCaballeronia insecticolaではデバイス内でもスムーズな運動が可能であったが、一方、ドリル運動ができない細菌では閉じ込めるとすぐに運動性がみられなくなった。狭小空間での運動にはべん毛モーターの回転制御が必要不可欠であり、べん毛の巻き付け個体が閉じ込める前に比べて高い割合をもっていた。細菌は閉じ込められると狭小空間であることをうまく認識して、通常の遊泳運動から狭小空間に適した運動様式へと切替をしていると考えられる。このような狭小空間での運動は、食中毒の病原細菌であるCampylobacter jejuniにおいても観察できており、感染・共生に関与する細菌において、保存された運動様式であると考えられる。狭小空間は実験室環境では再現しにくいものであるが、自然環境中では広く見られるため、本研究で構築した新しい実験系により細菌本来の生き様を明らかにすることができると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
微小流体デバイスの制作が順調に進展している。これは代表者の所属先である電気通信大学の共同研究設備であるクリーンルームの利用によりところが大きい。細菌運動の専門家である本研究代表者と、MEMSの専門家である本研究分担者が学内で連携することにより、効率的に研究を進めることができた。また、今年度作成した微小流体デバイスを用いることで、本領域メンバーだけでなく、新しい共同研究へと展開させた。私たちが主に注目していたのは共生細菌であったが、それだけでなく、ヒトの病原細菌であるCampylobacter jejuniにおいても、デバイス内での運動観察を実施した。病原細菌の中には運動性が感染過程に重要であることが知られているため、このようなアプローチは医歯薬学分野でも重要な成果であると考えられる。このような新しい共同研究はイギリスやフランスなど海外の研究者との共同研究として実施しており、国際的な連携も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
微小流体デバイスの中に細菌を閉じ込めて、その運動を観察するという研究アプローチを進める。デバイスのかたちを自由自在にデザインすることで、多様な細菌の運動がそれぞれの狭小空間でどのように変化するかを検証する。顕微鏡下での単純な運動観察を比較するのではなく、運動する場所そのものを自由自在にデザインすることで、運動性自体が変化すると期待している。このような狭小空間をデザインするというアプローチだけでなく、ドリル運動がどのように達成されているのか、メカニクスという視点からも研究を展開させる。運動装置であるべん毛のモーターの出力や、べん毛繊維の根元にあるユニバーサルジョイント(フック)の柔らかさによって、巻き付け運動への効率的な切り替えが達成されていると予測している。この仮説を検証するために、異なる細菌間での高精度の顕微計測を実施する。
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