研究領域 | 性染色体サイクル:性染色体の入れ替わりを基軸として解明する性の消滅回避機構 |
研究課題/領域番号 |
22H05071
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
風間 裕介 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (80442945)
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研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
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キーワード | 性染色体 / 雌雄異株植物 / ヒロハノマンテマ / X染色体 / 性染色体消滅 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ナデシコ科雌雄異株植物ヒロハノマンテマ(Silene latifolia)のY染色体に座乗する性決定遺伝子(GSFY)と、X染色体に座乗する性決定補助遺伝子(GPF/SlWUS1)の機能と進化過程を解明し、「植物性染色体の進化におけるY染色体とX染色体の性決定機能分担のメカニズム」を明らかにすることである。雌雄異株植物は、両性花植物から進化したと考えられている。XY型の場合、Y染色体上に雌ずいの発達を抑制する遺伝子(GSFY)と、雄ずいの発達促進する遺伝子との2つの性決定遺伝子が必要である。代表者らは、GSFYの有力候補を発見した。 今年度は、GSFYの発現解析及び機能解析を行った。in situハイブリダイゼーションを行ったところ、雄花の発達のごく初期に予定雌ずい領域でGSFの発現が観察された。 GSFYはシロイヌナズナのCLV3遺伝子のホモログであることがわかった。CLV3はシロイヌナズナにおいて茎頂分裂組織の維持やサイズ制御に関わる遺伝子であり、花芽分裂組織のサイズ制御にも関わる。シロイヌナズナにおいてCLV3を高発現させると花芽メリステムが矮小化し雌ずいをもたない花をつける。同様にGSFYをシロイヌナズナやトレニアに形質転換したところ、雌ずいの発達が抑制された。また、CLV3は12アミノ酸残基のペプチドとして作用することが知られている。GSFYのペプチドを人工合成してシロイヌナズナやヒロハノマンテマの茎頂に処理したところ、どちらにおいても茎頂分裂組織が矮小化した。また、GSFYペプチドをヒロハノマンテマの花芽に処理したところ、雌ずいの発達が抑制された。以上より、GSFYが予定雌蕊領域で発現し、雌蕊の発達抑制機能をもつことを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GSFYの発現様式と機能を明らかにすることができた。代表者が保持するヒロハノマンテマの両性花変異体11系統全てがGSFYを欠失していたことからも、GSFYが雌蕊の発達を抑制する性決定遺伝子であることが示唆された。ヒロハノマンテの性染色体は1923年に発見されて以来、570 Mbと巨大なY染色体のほとんどの領域が組換え抑制領域であることから、性決定遺伝子の同定に困難を極めてきたが、本研究により初めて性決定遺伝子のうちの1つGSFYを同定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナにおいて、CLV3遺伝子はWUS遺伝子と共にフィードバックループを形成し、茎頂分裂組織の維持を行なっており、wus遺伝子の欠損変異体はCLV3の高発現体と同様に雌ずいをもたない花を咲かせる。すなわち、WUSは雌蕊の発達を促進するはたらきをもつと考えられる。ヒロハノマンテマゲノムを調査した結果、ヒロハノマンテマのX染色体にWUSのホモログ(SlWUS1)が座上しY染色体には存在しないこと、GSFYのパラログ(SlCLV3)及びSlWUS1のパラログ(SlWUS2)がそれぞれ常染色体に存在することを発見した。これらは全て花芽において発現していることが確認された。ヒロハノマンテマにおける雌蕊の発達はこれらの遺伝子のバランスによって決定される、X染色体も性決定に関わるのではないかと考えらえる。今後は、これら4つの遺伝子に着目し、X染色体コピーを増やした場合の性発現の変化やGSFYペプチドに対する応答を調査し、茎頂分裂組織のサイズの雌雄差、4コピーの発現様式の違い等を調査し、X染色体の性決定能を検証していきたい。
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