研究領域 | プラスチド相転換ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
22H05078
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
八丈野 孝 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (10404063)
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研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
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キーワード | 色素体 / グリーンバイオニシア / プラスチド崩壊 / 農奴化 / ゾンビ化 / うどんこ病菌 |
研究実績の概要 |
高等植物の色素体は絶対寄生性病原菌との攻防の主戦場である。侵入された場合、表皮細胞においては貯蔵デンプン奪取のために侵入部位付近のプラスチドは崩壊させられる。一方、侵入された表皮細胞周辺の葉肉細胞においては、防御のための黄化が阻止され、葉緑体に分化した状態のままにさせ、光合成産物の供給を強いられ続けゾンビ化する。葉緑体が維持させられている領域のことをグリーンバイオニシア領域と呼んでいる。病原菌による色素体の崩壊とゾンビ化の仕組みはおろか、隣接する細胞間で相反する制御を受ける分子メカニズムも全く不明である。本研究では、色素体の崩壊が実際にどのように起きているのか、ゾンビ化した葉緑体がどのような構造をしており光合成活性はどの程度維持されているのかを明らかにしてきた。 うどんこ病菌が侵入する感染初期においては、プラスチドが崩壊することを明らかにしてきたが、どのように崩壊するのか微細構造はわかっていなかった。そのため、プラスチドをGFPで蛍光標識したオオムギ形質転換体を用いて侵入部位にプラスチドが集まっている状態の表皮細胞を集め、広域SEMに供試した。その結果、プラスチドの包膜が断片化している状態を観察することができた。 グリーンバイオニシアが形成される感染後期において、色素体の微細構造を解析したところ、うどんこ病菌直下の葉肉細胞では特徴的な構造を持つ色素体が存在していた。各領域間での光合成関連タンパク質の蓄積量を比較したところ、うどんこ病菌直下ではD1タンパク質が減少していることが明らかになった。光合成活性、色素体の構造、D1タンパク質の減少などを勘案すると、その色素体はクロモプラスト様プラスチドであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プラスチドの崩壊メカニズムについては、トランスクリプトーム解析やプロテオーム解析をせずとも、微細構造からそのメカニズムについての手がかりを得ることができた。バイオニシア形成に関しても、光合成関連タンパク質の解析によって、クロモプラスト様プラスチドへの相転換メカニズムが存在することがわかってきており、その仕組みについてもD1タンパク質の転写あるいは翻訳制御がうどんこ病菌によって標的とされている可能性を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
電子顕微鏡解析から想定以上の手がかりを得られているが、侵入時のプラスチド崩壊についてはさらに詳細な情報を得るために、時系列サンプルを収集し、固定作業を行なっている。侵入時のプロテオームデータはすでに取得済みなので、電顕データと照らし合わせながら、制御に関わる候補タンパク質を選定する。グリーンバイオニシア形成時のうどんこ病菌直下のクロモプラスト様プラスチドへの相転換メカニズムについては、トランスクリプトーム解析及びプロテオーム解析を行うためのサンプル調整を進める。D1タンパク質が減少するタイミングについては、経時変化をすでに調査済みであるため効率よくサンプル調整できる。各領域における色素(クロロフィル等)を測定することで色素体の構造との相関関係を解析する。プラスチド崩壊及びクロモプラスト分化に関与するオオムギうどんこ病菌のタンパク質候補を選抜し、それらのタンパク質の機能を生化学的に解析する。プラスチド崩壊を引き起こすかどうかを解析するためのシングルセルマイクロインジェクション技術をすでに確立している。同定されたタンパク質を大腸菌で合成して精製し、任意の1細胞にインジェクションしてプラスチド崩壊が誘導されるかを明らかにする。
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