研究領域 | 動的溶液環境が制御する生体内自己凝縮過程の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
22H05090
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
関山 直孝 京都大学, 理学研究科, 助教 (50758810)
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研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
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キーワード | 天然変性タンパク質 / 液液相分離 / アミロイド線維 |
研究実績の概要 |
天然変性タンパク質の自己凝縮過程には、分子を取り囲む動的な溶液環境が重要な役割を果たしていることが明らかになっている。しかしながら、これまでの研究は主に精製タンパク質を用いたin vitro実験に限られており、細胞内の動的な溶液環境や非膜型オルガネラ、アミロイド線維形成との関係については十分に理解されていない。そこで本研究では、TIA-1の自己凝縮過程を制御する動的溶液環境を網羅的に探索することを目的としている。 今年度は、培養細胞からTIA-1顆粒を単離する実験を行った。しかし、細胞培養条件の検討を行っていたところ、当初の予想に反して、予定していた培養条件及び実験手法では細胞抽出実験ができないことが判明した。そのため、新たな培養条件や実験手法の開発が必要となっている。 一方、今年度はin vitro実験に注力しており、TIA-1の野生型とALS変異型のアミロイド線維構造のクライオ電子顕微鏡による構造解析を行った。その結果、TIA-1の天然変性タンパク質領域であるプリオン様ドメインが形成するアミロイド線維構造を調べ、線維形成の可逆性を保証する構造的特徴を発見した。また、ALSに関連する変異を持つアミロイド線維構造を明らかにし、疾患関連変異が野生型線維構造におけるタイトコンフォメーションを破壊し、アミロイド線維形成が不安定化し遅延することを示した。この研究成果により、アミロイド線維形成に対する疾患関連変異の構造障害がALSの病態に寄与している可能性が示唆された。これにより、顆粒内部の構造情報と比較するためのin vitro実験のための情報が増加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者らは以前、TIA-1の自己凝縮化に着目し、TIA-1がクロスベータ構造を形成することや、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関わるアミノ酸変異がその溶媒和構造を変化させることなどを発見した。本研究では、これらの知見や技術を活用し、TIA-1の自己凝縮過程を制御する動的溶液環境を網羅的に探索することを目的としている。その中でも、TIA-1顆粒を細胞から単離する手法は本研究を実施する上で重要である。 本研究では、テトラサイクリン誘導系システムを用いて、GFP融合型TIA-1の発現誘導可能な細胞株を使用していた。この細胞を亜ヒ酸に曝露しストレス顆粒形成を誘導し、細胞抽出物を低速・高速で遠心することでサイズ依存的な凝集体の分離を行う予定であった。しかし、本手法で得られる顆粒は凝集性が非常に高く、質量分析法による解析が困難であることがわかった。そこで細胞に導入する遺伝子の見直しや、顆粒の単離方法を再考することにした。 一方で、今年度はTIA-1の野生型とALS変異型のアミロイド線維構造のクライオ電子顕微鏡による構造解析に成功した。このような構造情報は、上記の細胞実験を行う上でも重要だと考えられるため、今後はin vitro実験も継続して行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、in vitro実験で得られた情報を元に、TIA-1顆粒内部の構造情報と比較するための新たな実験を計画している。このために、顆粒内部の蛍光プローブを用いた観察や、分子動力学シミュレーションによる解析、さらには新たな細胞培養条件や実験手法の開発を行う予定である。これらの研究により、TIA-1の自己凝縮過程を制御する溶液環境を同定することを目指す。 TIA-1顆粒の単離に成功した後、まずはアミノ酸選択的化学修飾と質量分析法を組み合わせた手法により、細胞から単離したTIA-1顆粒内部の溶媒和構造を明らかにし、野生型とALS変異型の比較を行う。次に、ATPやイオンの添加、超音波や撹拌といった物理的環境の摂動を与え、TIA-1顆粒の溶媒和構造がどのように変化するかを解析し、膜なしオルガネラやアミロイド線維を安定化する動的溶液環境を探索する。また、細胞から抽出した顆粒をin vitro実験系で扱うことにより、細胞内分子の影響を考慮しながら溶液環境を自由に変化させることができるため、生物学的意義のある動的溶液環境の特定につながることが期待される。以上のような研究を通じて、TIA-1顆粒の自己凝縮メカニズムに関する理解を深め、神経変性疾患の治療法開発に役立つ知見を得ることを目指す。
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