研究領域 | 動的溶液環境が制御する生体内自己凝縮過程の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
22H05091
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 秀樹 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (50435666)
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研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
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キーワード | 合成生物学 / 光操作 / ケミカルバイオロジー / 相分離 / 線維化 / 蛍光イメージング |
研究実績の概要 |
生きた細胞内でタンパク質が相分離することで形成される凝縮体の操作技術開発を行なった。細胞内で人工の凝縮体をつくる技術は申請者の先行研究を含め複数報告されていたが、凝縮体をこわす(離散させる)技術の報告はごく少数であり、特に内在性の凝縮体をこわす技術はほとんど存在しなかった。そこでまず、細胞内で実際に形成される凝縮体をこわす技術ActuAtorの開発に成功、細胞毒性の検証など論文出版に必要なデータ取得を行ない論文を投稿した。 また、領域内の共同研究を通じて、神経変性疾患に関連するタンパク質であるα-シヌクレインおよびTIA-1の凝縮課程を生きた細胞内で観察する実験系の構築に着手した。まずこれら2つのタンパク質に蛍光タンパク質を融合したプラスミドを作成し、生きた細胞内に強制発現させることで凝縮課程を観察することができないか検証を行なったところ、両者とも細胞全体に一様なシグナルしか観察されなかった。また、TIA-1については天然変性領域のみでも同様の実験を行なったが、こちらも明確な凝縮は観察されなかった。これらの結果から、培養哺乳動物細胞を用いた実験系で、これらのタンパク質の生きた細胞内での凝縮過程を観察するためには、なんらかの手段で強制的に凝縮させる方法論を用いなければならないと判断した。 そこで、生きた細胞内で自己集合するタンパク質ツール、Cry2やホモ二量体を形成するFKBPタンパク質の変異体Fmを用いた自己集合ツール(5Fm)を細胞内に強制発現させるプラスミドを作成し、これらのツールが細胞内で実際に自己集合することを確認した。Cry2は青色光刺激依存的に巨視的な不定形オリゴマーを形成し、5Fmは刺激なしでほぼ球状の液滴様の凝縮体を形成した。5Fmの凝縮体に細胞外から化合物FK506刺激を加えると、速やかに離散することを確認した。今後モデルタンパク質との組み合わせを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、化合物や光刺激により、生きた細胞内に形成されたタンパク質-核酸の凝縮体であるストレス顆粒を刺激依存的に離散させるツールActuAtorの開発に成功し、論文投稿に至った。本技術は、凝縮課程の操作技術として先進的なだけに止まらず、生きた細胞内で物理的力を発生させて細胞内小器官などを変形・運動させる極めてユニークな技術であり、幅広い分野に応用可能な重要技術と言える。 また、領域内共通の標的タンパク質であるα-シヌクレインやTIA-1について、生きた細胞内での挙動を実際に検討し、本研究課題における技術的目標が明確になった。実際に応用可能な要素技術について、ハード・ソフト両面で準備を行い、研究を遂行する上での基盤を築くことができた。今後の領域内共同研究の大きな進展が期待される状況であり、概ね順調に計画が進行している。 次年度以降の展開を考え、細胞内の溶液環境に大きく影響する条件の代表例として、低酸素条件での詳細な生化学的解析を行うため低酸素で細胞培養可能なクローズドチャンバーの購入手続きを進めたが、22年度内での購入が難しく次年度への繰越が発生した。手続き上遅れが発生しているが、他の面で着実に成果が得られていることから、大きな問題は生じない。 生きた細胞内で標的タンパク質を凝縮させる技術は、今後の期間で標的タンパク質に応用し、生きた細胞内で溶液環境を擾乱する方法論の開発を進める予定である。低酸素条件での細胞培養はその有力な一手段と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に予備的検討を終えた光刺激依存的オリゴマー化ツールCry2、および化合物刺激依存的凝縮体離散ツール5Fmについて、領域内の共通標的タンパク質であるα-シヌクレインおよびTIA-1と組み合わせた実験を行い、標的タンパク質を含む凝縮体を生きた細胞内に形成することができるかを検討する。必要に応じて新たな技術の開発や導入を行い、生きた細胞内に標的タンパク質の凝縮体を形成し、凝縮過程を観察する実験系の構築に取り組む。 並行して、生きた細胞内の動的溶液環境に擾乱を与える実験系の構築にも取り組む。細胞内のATP濃度を低下させる実験系や、細胞を低酸素環境で培養する実験系を構築し、これらの条件が細胞内の凝縮体の形態やダイナミクスに影響を与えないかを検討する。 上記の実験を可能にするため、青色光刺激による光操作実験と同時に測定可能なATP濃度バイオセンサーが必要となる。現在報告されているFRETバイオセンサーは、青色光によって励起されてしまう蛍光タンパク質を用いていることから、光操作との同時計測ができない。この問題を解決し、青色光刺激とFRETバイオセンサーによる計測を同時に可能とする実験系の構築を目指す。
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