研究領域 | データ記述科学の創出と諸分野への横断的展開 |
研究課題/領域番号 |
22H05109
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
木村 正雄 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (00373746)
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研究分担者 |
武市 泰男 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (40636461)
稲田 康宏 立命館大学, 生命科学部, 教授 (60242814)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2027-03-31
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キーワード | X線顕微鏡 / X線吸収分光 / パーシステントホモロジー / Trigger sites / CFRP / 焼結鉱 / リチウムイオン電池 |
研究実績の概要 |
本課題では、(1)材料の機能発現や劣化に伴う化学状態の不均一性の変化の解明に必要なX線分光顕微鏡技術の確立、(2)得られた多次元データ(=3D組織+エネルギー+反応軸+etc)からの、高次元可視化法や最適輸送理論等を応用した次元削減と情報抽出、 (3)様々な物性値の‘かたち’やその‘うごき’に注目し、計測されたビッグデータから、材料の機能発現や機能劣化の起点(=“trigger sites”)を特定する数理的アプローチの開発、を目指す。今年度は、具体的な材料応用として社会インフラ構造材料の劣化・破壊,およびエネルギー関連材料(電池)の機能発現の分野の研究に取り組み以下の成果を得た。 ・航空機用の構造材料である炭素繊維強化樹脂(CFRP)について、放射光X線顕微鏡を用いて応力印可下での亀裂の発生・進展挙動を、nm―cmのマルチスケールで非破壊観察することに成功した。そして亀裂の‘かたち’が 炭素繊維の配列によって大きく異なり、二種類の亀裂発生メカニズムが拮抗して破壊が進むことを解明した。 ・鉄鋼製造の出発素材である鉄鉱石(Fe-Ca-Oの複合酸化物)の還元に伴う鉄の化学状態の変化を硬X線分光顕微鏡で可視化し、得られたギガバイトのビッグデータの解析技術の開発を行った。さらに軟X線顕微鏡の高度化のための装置開発を行った(コロナ禍の影響で部品の調達や予備実験が遅れたため装置製作は2023年度に繰り越したが備品の調達が遅れ資材の調達および装置製作は2023年度に繰り越し)。 ・分解能・視野の異なるX線分光顕微鏡を組み合わせて,リチウムイオン電池の活物質内の金属元素の化学状態をマルチスケールでマッピングする観察技術を確立し、充放電サイクルに伴う金属の化学状態(価数)の不均一構造の変化を可視化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の今年は、当初計画において、具体的な材料応用先である、社会インフラ構造材料の劣化・破壊,およびエネルギー関連材料(電池)の機能発現、に関する反応解析を行うためのX線顕微鏡の計測技術の高度化を中心に進めることとなっていた。 計画していた、(a) CFRPについて放射光硬X線顕微鏡による応力印可下での亀裂の発生・進展挙動のマルチスケール(nmーcm)の非破壊観察、(b) 鉄鉱石(Fe-Ca-Oの複合酸化物)について、放射光硬X線分光顕微鏡を用いた鉄の化学状態のマッピング技術、(c) リチウムイオン電池について、硬X線分光顕微鏡を用いた活物質内の金属元素の化学状態のマルチスケールマッピング技術、の三項目すべてについて目標とした機能を有する技術を確立することができた(一部、目標以上の性能を達成)。またこれらの技術の発展として、軟X線顕微鏡の高度化のための装置開発も予定通り行えた。具体的な装置の設計はコロナ禍の影響で部品の調達や予備実験が遅れたため装置製作は2023年度に繰り越したが、高度化前の軟X線顕微鏡でも研究遂行に必要な最低限のデータは2022年度内に取得できていたので、トータルとして研究遂行はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
5年間の2年目となる2023年度は、初年度に高度化を進めたX線顕微鏡の計測技術を用いて、各材料系での反応に伴う化学状態や微細組織の‘かたち’の‘うごき’の観察を行う。それにより得られた 多次元(=3D組織+エネルギー+反応軸+etc)のビッグデータから、材料の機能発現や機能劣化の起点となる“trigger sites”を特定するための数理的アプローチの研究を進める。具体的には、以下の項目を推進していく。 ・CFRPについて、亀裂の発生・進展挙動を観察したX線顕微鏡ビッグデータについて、パーシステントホモロジーを用いた位相的データ解析を行い、そのメカニズムとの関連性を解明していく。 ・鉄鉱石(Fe-Ca-Oの複合酸化物)について、その化学状態をマッピングするための硬X線分光顕微鏡の空間分解能を1/5から1/10程度に高度化する。さらに、軟X線顕微鏡の高度化のための装置開発を行う。 ・リチウムイオン電池について、X線分光顕微鏡を用いて充放電サイクル中のの活物質内の充電相、放電相の‘かたち’の変化を観察し、そのイメージスタックをパーシステントホモロジーを用いた位相的データ解析を行う。 ・多次元データの可視化技術について検討を進める。
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