研究領域 | 生体反応の集積・予知・創出を基盤としたシステム生物合成科学 |
研究課題/領域番号 |
22H05124
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山崎 真巳 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (70222370)
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研究分担者 |
Rai Amit 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (60760535)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2027-03-31
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キーワード | 生合成 / 統合オミクス / ゲノム / トランスクリプトーム / メタボローム / アルカロイド / カンプトテシン / 二次代謝 |
研究実績の概要 |
本研究は、植物が化学多様性に富む生理活性物質・機能性物質を生産するしくみを根本的に理解し持続可能な利用に応用展開することを目的とする。植物における複雑な物質には多様な生体内反応を担う生体触媒である酵素と細胞内・間の物質輸送をになう輸送体タンパク質が関与しており、それぞれが精緻な制御を受けている。これらの情報は遺伝情報としてゲノムに記載されているので、ゲノムを基盤とした統合オミクス解析を展開することにより複雑な物質生産機構を解明できると期待される。本年度は、抗がん性モノテルペノイドインドールアルカロイド(MIA)のカンプトテシンを生産するアカネ科チャボイナモリについて、染色体レベルでアセンブルされた高品質ゲノム配列情報をもとに遺伝子クラスターならびにcis配列-trans因子の探索を行った。さらにこの高品質ゲノム配列を足場として、既存のトランスクリプトーム・メタボロームデータを再解析することによって基盤となる共存性データベースを整備した。これらの情報(ゲノム構造、MIA関連代謝物とリンクした発現遺伝子リスト等)からMIA生合成に関与すること予測される候補遺伝子を絞り込みこれらについてゲノム編集によるターゲット遺伝子のノックアウト体を作出した。また種子にイオンビーム照射よるランダム変異体を作製した。これらのうち、輸送体をコードする遺伝子のノックアウトラインにおいてMIA関連代謝物の含有量に変動が見られ、これらが生合成中間体の輸送に関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カンプトテシン生産に関与する遺伝子クラスターとして、既知の生合成酵素[トリプトファン脱炭酸酵素(TDC)、ゲラニオール10-水酸化酵素(G10H)、セコロガニン合成酵素(SLS)、ストリクトシジン合成酵素(STR)]ならびに生合成下流の分子修飾における酸化還元反応を触媒すると予測されるチトクロームP450(CYP)ならびに2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲネース(2OD)をコードする遺伝子群等が含まれ、カンプトテシン生合成に関与することが予測される遺伝子クラスターを明らかにすることができた。これらを足場としてとして、既存のトランスクリプトームデータをマッピングすることにより発現様式をとメタボロームデータと統合解析することによって基盤となる共存性データベースを整備し、カンプトテシン生合成に関与すると予測される候補遺伝子を絞り込むことができた。これらのうち、複数の輸送体遺伝子のノックアウトラインにおいてMIA関連代謝物の含有量に変動が見られ、これらが生合成中間体の輸送に関与することが示唆され、カンプトテシン生合成に関する新しい知見を得ることができた。イオンビーム照射よるランダム変異体作製については、照射種子の発芽率、生育後の催奇形率を調べることにより、適正な照射ビーム強度を決めることができた。今後はこの条件にて照射種子数を増やしスクリーニングの確度を上げることができると予想される。安定同位体取込による生合成中間体の解明を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子クラスター解析、共発現解析および代謝物の変化した変異体のゲノム解析からカンプトテシン生合成に関与することが推定される遺伝子群についてファンクショナルゲノミクスによる機能解析をさらに進める。CRISPR/Cas9系を用いたゲノム編集により候補遺伝子のノックアウト毛状根あるいは候補遺伝子を過剰発現させた毛状根を作製する。これらの毛状根における安定同位体標識を用いた精密メタボロミクス解析により代謝物変動を解析する。ノックアウト体あるいは過剰発現体により生合成中間体の変動により、遺伝子機能を逆遺伝学的に同定する。可能な場合には組換えタンパク質を用いた触媒酵素の機能同定を行う。ファンクショナルゲノミクスにより明らかにされたカンプトテシン生合成の分子基盤に関する知見を基に、他のモノテルペノイドインドールアルカロイド生産植物のゲノム情報を用いて種間の比較ゲノミクス・メタボロミクスを行う。現在までに染色体レベルまでに連続しているゲノム配列はチャボイナモリゲノムのみであるが、これを足場として断裂したゲノム情報(ニチニチソウ、キジュ、クサミズキ等)を解析することにより、より詳細な遺伝子クラスター解析が可能になる。これらを解析することにより植物の進化、種分化とアルカロイド分子の炭素骨格多様性の関係を明らかにする。また、カンプトテシン以外の関連アルカロイド生合成についても生合成中間体の探索などを進める。
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