研究領域 | 光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革 |
研究課題/領域番号 |
22H05139
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
蓑輪 陽介 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 助教 (50609691)
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研究分担者 |
坪田 誠 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (10197759)
西岡 孝 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 教授 (10218117)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2027-03-31
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キーワード | 量子渦 / らせん |
研究実績の概要 |
極低温の液体ヘリウム中で、狙った量子渦を光の焦点まで移動させるために、クライオスタット内部に低温用直動ステージを組み込んだ実験系を構築した。実際に極低温実験を繰り返すことで、ステージの取り付けに最適なマウント・実験セルを設計することができた。また、単一の半導体シリコン微粒子自体を安定的に光トラップするための、最適実験パラメーターの探索により、繰り返し周波数12.5 Hz程度のナノ秒レーザーを用いて単結晶シリコン板をレーザーアブレーションすることで、大量のシリコン微粒子を液体ヘリウム内に効率よく導入できることが分かった。これらの研究により、レーザーアブレーションによって導入した半導体シリコン微粒子を、高確率で光によって安定に捕捉できる環境が整った。一方で、偶発的なきっかけで、レーザーアブレーションによって作製された半導体シリコン微粒子の一部は帯電している事が明らかになってきた。そこで、特に量子渦と一体となって運動する微粒子群の一部が帯電することを利用し、量子渦の励起状態生成を交流電場の印加によって行える可能性を明らかにした。つまり、帯電粒子を媒介として電場によって量子渦に摂動を与えることが可能である。特に実験グループと理論グループの協同により、量子渦の中心軸が螺旋状に波打つモード、すなわち量子渦を含む一般の渦にとって最も重要な励起の一つであるケルビン波モードが電場印加によって励起可能であることを明らかにした。これは、超流動ヘリウム中の量子渦において、ケルビン波を意図的に励起できることを実証した世界初の実験である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画にはなかったものの、量子渦のらせん励起であるケルビン波を直接励起できる手法を世界で初めて確立したことは非常に大きな進展である。一方で、当初狙っていた光と量子渦との相互作用については、極低温実験のマシンタイムの問題も有り、想定通りには進んでいない。これらを総合的に勘案し、本研究はおおむね順調に進行していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究により、量子渦と一体となって運動するシリコン微粒子群のうち、まれに帯電している微粒子が存在することが分かった。この帯電シリコン微粒子を媒介として利用することで、交流電場の印加によって量子渦に摂動を与え、その励起状態生成を行える事も分かってきた。特に量子渦を含む一般の渦にとって最も重要な励起の一つであるケルビン波が、電場印加によって励起可能であることが判明した。当初計画には含まれなかったものの、この螺旋状のケルビン波の励起は、量子流体中でのヘリシティや角運動量が、異なる空間スケールをどう移行するかを解明する、という本領域の大きな学術的目的のうち一部に密接に関連する非常に重要な結果である。そこで、電場によるケルビン波励起に取り組む。特に、ケルビン波のらせん性を明らかにするために、量子渦の3次元可視化を行う。これまでの研究とは異なり、実験セル内の奥行き方向の情報も取得することで、ケルビン波のらせん性を実験的に明確に示すことを目指す。同時に、光の運動量を用いた量子渦の操作および、光の角運動量の量子渦への転写の研究にも取り組む。昨年度までの研究により、より多く、かつ、より長い時間、量子渦をシリコン微粒子によって可視化するための条件の最適化が進んできた。特に、レーザーアブレーションに用いるナノ秒レーザーの繰り返し周波数とパルスエネルギーの条件出しを行ってきた。これらの条件の最適化をさらに進めるとともに、超らせん光を用いた、シリコン微粒子を介した光と量子渦の相互作用の実証に取り組む。
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