研究領域 | 力が制御する生体秩序の創発 |
研究課題/領域番号 |
22H05165
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
茂木 文夫 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 教授 (10360653)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2027-03-31
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キーワード | 力作用 / 多細胞 / 自律的秩序化 / 細胞極性 / 卵母細胞 / 温度遺伝学 / 線虫 / 細胞骨格 |
研究実績の概要 |
生物は細胞集団の空間パターンをマクロスケールで秩序化することで、組織・器官としての形と機能を創生する。この細胞集団の秩序化では、それぞれの細胞が機械的力の発生を感知・応答することで細胞内化学シグナル伝達を調節する「力学化学カップリング」を必要とすることが示された。しかしながら、生体内の力作用は直接可視化することができないので、力学化学カップリングの分子機構と生理的役割には未だに不明な点が多い。そこで、生体内の力作用を定量的に評価し、力作用を人為的に操作するための、新規の技術開発が必要とされる。 本研究では先ず、力発生の生理的役割を解明するための技術開発を目的として、マイクロ流体デバイスと光照射による細胞内温度変化を利用して、力発生に関わる標的因子の機能を素早く阻害する「温度遺伝学法」を開発する。この手法では、細胞内局所の温度変化は高速温度感受性の遺伝子変異を導入した細胞骨格因子によって感知され、力発生の局所的変化へと変換される。さらに、紫外域光の照射で細胞内外の微小構造を破壊するマイクロレーザー手術を活用することで、生体内における力発生の局所的な計測・評価・人為的操作を行う。 これらの技術を活用して、線虫胚では多細胞期における非対称分裂を対象に、線虫成体では子宮内における卵母細胞形成を対象として、微小管およびアクチン骨格に由来した力発生が細胞集団と組織の空間パターン秩序化を誘導する機構を解析している。細胞の自律的および非自律的な力学的作用が、細胞集団の自己組織化において極性因子や体細胞・生殖細胞・卵母細胞の運命決定因子に与える影響を定量的に評価することで、マクロスケールの生体秩序化を司る新規原理を解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、力発生の生理的役割を解明するための技術開発を目指し、マイクロ流体デバイスと光照射による細胞内温度変化を利用して、力発生に関わる標的因子の機能を素早く阻害する「温度遺伝学法」を検討してきた。この手法では、人為的な細胞内局所の温度変化は、高速温度感受性の遺伝子変異を導入した細胞骨格分子によって感知され、細胞内における力発生の局所的変化へと変換される。これまでの実験から、II型ミオシンnmy-2・フォルミンcyk-1・微小管tba-1の温度感受性変異株が温度変化に対して10秒以内に細胞骨格構造を阻害することが確認でき、中心体因子spd-2・細胞分裂ミッドボディcyk-4・PAR複合体par-2,pkc-3の温度感受性変異株も30秒程度でそれぞれが関与する構造体を阻害することが確認できた。 現在はこの技術を活用して、線虫胚では多細胞期における非対称分裂を対象に、線虫成体では子宮内における卵母細胞形成を対象として、微小管およびアクチン骨格に由来した力発生が細胞と組織の空間パターン秩序化に及ぼす影響を解明している。これまでの実験から、極性の開始とパターン形成は、受精卵(単細胞)と多細胞期胚で大きく異なることが示された。多細胞期胚の生殖細胞前駆体形成では、極性形成が微小管に依存しており、この方向性は隣接細胞を必要とするがカドヘリンなどの細胞間接着分子に依存しない。また、卵母細胞形成では、形態形成期に起こる細胞質流れのメカニズムを、アクチン骨格の局所的阻害実験によって解明した。今後は種々の温度感受性変異株を用いて、非対称分裂と卵母細胞形成を司るメカニクスの生理的役割を解析する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、温度遺伝学手法による生体内温度局所変化の空間解像度を改善するための実験条件を検討する。先ず、生体内温度を定量的に計測するために、遺伝学的手法で導入可能な温度センサープローブgTEMPを生殖細胞で発現させる形質転換体を作成し、温度遺伝学的手法を適応したときの細胞内温度変化の分布を計測する。更に、温度変化を局所に限定させるために、生体内へのナノ粒子の導入を検討する。 多細胞期胚における非対称分裂では、中心体・微小管・アクチン骨格を生殖細胞前駆体または隣接細胞で阻害することで、生殖細胞前駆体の極性化が細胞自律的か非自律的かを解明する。次に、これらの機能を特異的な細胞周期に特定の場所で阻害することで、細胞骨格由来の力作用と細胞非対称化(PAR複合体および細胞質性運命決定因子)の因果関係を明らかにする。 子宮内における卵母細胞形成では、アクチン骨格由来の力発生に依存して起こる細胞質流れが、卵母細胞の形態形成と品質管理に及ぼす影響を解析する。アクチン骨格の局所的阻害が、卵母細胞膜の再編成、アポトーシス、MAPKシグナル活性勾配の形成、細胞周期進行に及ぼす影響を体系的に調べることで、力作用の生理的作用を明らかにする。
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