計画研究
R4年度の本研究計画班の研究では、亜寒帯外洋域の高栄養物質海域の形成過程を対象とするA)海盆スケール研究(縁辺海ー亜寒帯域ー親潮)と、B)陸・沿岸スケール研究(陸ー沿岸親潮ー親潮)の研究の2つのスケールの研究のための準備をすすめ、一部研究を遂行した。主なものを下記に記載する。A)海盆スケール研究(縁辺海ー亜寒帯域ー親潮)海洋一次生産を制限する要因の一つである鉄の輸送プロセスを解明するための化学トレーサーとして、海水中の極微量のマンガンを測定するためのシステムを整備し、実試料の分析を試みた。キレート樹脂カラムと高分解能ICP質量分析計を用いることによって、1pM程度の濃度まで分析が可能となった。また、白鳳丸KH-22-7航海における高速水温計を用いた乱流観測を実施しそのデータを解析した。さらに若鷹丸WK-22-9航海における北海道沿岸における混合・水塊観測を実施した。B)陸・沿岸スケール研究(陸ー沿岸親潮ー親潮)沿岸親潮海域の植物プランクトンブルームを生み出す栄養物質環境の形成過程を検討するため、上流に位置する南部オホーツク海の水塊構造と栄養物質データの解析を実施した。その結果、沿岸親潮の栄養物質化学的プロパティの形成には、冬季から春季の南部オホーツク海の水塊混合が密接に関わることを見出した。また、沿岸親潮への淡水供給メカニズム、沿岸親潮による栄養塩輸送メカニズムの詳細解明に向けて、冬季(2月)における南部オホーツク海の水塊構造を塩分、水温および腐植様溶存有機物から評価した。さらに、沿岸親潮域とその上流のオホーツク海における水塊、クロロフィル、基礎生産および栄養塩濃度のマッピングに向け、複数の海色衛星データセット収集と予備的解析を行った。また、北海道南岸の春季ブルームの発生と沿岸親潮の流路との関係を調べ、沿岸親潮が西側に流入しない年は、西側のブルームの規模が極めて小さいことを確認した。
2: おおむね順調に進展している
R4は観測研究を実施するための準備に加えて、白鳳丸KH-22-7次航海の実施、南部オホーツク海の海上保安庁そうや航海の実施、若鷹丸WK-22-9航海における観測などを実施し、サンプルやデータの取得も進めることができた。一部データの解析もすすめられ、南部オホーツク海が沿岸親潮の栄養物質環境に与える影響や、北太平洋亜寒帯域のHNLC海域の形成過程についての情報が集まりつつある。このように当初想定したとおりの進捗状況である。
R5年度には、白鳳丸KH-23-2次航海を実施し、西部北太平洋亜寒帯域の微量栄養塩である鉄やトレーサーであるマンガンを含めた栄養物質循環の観測を実施する。また新青丸KS-23-15を実施し、沿岸親潮上流部に位置する南部オホーツク海におけるマッピング観測を実施する。栄養物質のマッピング時には、水塊構造とその混合の把握のために、トレーサーとしてCDOMの測定と乱流パラメータの測定を実施する。また海氷融解時(4月や5月)の南部オホーツク海に加わる淡水を塩分、水温および腐植様溶存有機物から河川水と海氷融解水に定量的に分離することを試みる。さらに栄養塩物質フラックスと衛星で得られる基礎生産過程を比較し、親潮域の生物生産に対する外洋域や縁辺海の寄与を精査する。今後、上記の観測で得られたデータを取りまとめることで、亜寒帯外洋域の高栄養物質海域の形成過程と、亜寒帯外洋と日本沿岸の水交換・物質交換を定量的に評価し、日本沿岸の栄養物質を生み出す仕組みを明らかにしていく。またこれらの研究をすすめることで、本領域研究が目指す「陸域から外洋におよぶ物質動態の統合的シミュレーションシステムの構築」に、物質動態の実態や物質フラックスの定量的な知見を与える
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 13件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 6件) 図書 (1件)
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