研究領域 | 法と人間科学 |
研究課題/領域番号 |
23101005
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
高木 光太郎 青山学院大学, 社会情報学部, 教授 (30272488)
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研究分担者 |
脇中 洋 大谷大学, 文学部, 教授 (10319478)
森 直久 札幌学院大学, 人文学部, 教授 (30305883)
大橋 靖史 淑徳大学, 社会学部, 教授 (70233244)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 被疑者面接法 / 虚偽自白防止 / 供述心理学 / 法心理学 |
研究実績の概要 |
本年度は「日本型取調べ」の特性をより明確に把握するために、イギリスで開発された被疑者取調べ技法であるPEACEアプローチと、アメリカで提案されているReidテクニックとの比較検討を中心に研究を進めた。 日本型取調べについては、複数の取調べ場面の録画記録および逐語記録の分析を通して、尋問者がコミュニケーションのフレームを明示しないまま会話を展開し、被疑者を自白に導く「仄めかし型」の取調べという特徴を持つ可能性が高いことが見出された。 さらに、この仮説を精緻化していくために、PEACEおよびReidテクニックの特徴を検討し比較を行った。その結果、PEACEアプローチでは被疑者を自白に導くことではなく、被疑者の釈明を十分に聞き取り、そこに証拠との齟齬や論理的な矛楯があれば、さらなる釈明を求めるという枠組みをもつことが確認された。また日本型取調べとは異なり取調べの冒頭でコミュニケーションのフレーム(被疑者の釈明の聞き取り)が尋問者によって明示され、以降のコミュニケーションがそれに強く拘束されていることも明らかになった。 Reidテクニックの場合は、日本型取調べと同様に被疑者を自白に導くことが強く意識されているが、PEACEと同様にコミュニケーションのフレーム(尋問者が設定した犯行図式を受け入れるか否か)は冒頭に明示され、それ以降のコミュニケーションは、これに強く拘束されていることが明らかになった。 このように日、米、英の被疑者取調べには、コミュニケーションのフレームの取り扱いと、目的としての自白獲得の有無という側面で、それぞれ違いがあることが明らかになった。来年度は、「フレーム非明示」「自白獲得志向」という日本型取調べ(「仄めかし型」取調べ)の特徴を実証的なデータの収集・分析もおこないつつ、さらに詳細に解明し、その問題点と改善の方向を明らかにすることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は日本型取調べとPEACEアプローチおよびReidテクニックの比較検討を中心に研究を進めた。当初の研究計画では本年度はPEACEモデルの検討に基づく模擬取調べ実験を実施する予定であったが、昨年度後半から最高検察庁との連携を通して知的障害をもつ被疑者の取調べに関する極めて有用な知見を得ることができ、それに基づいて「仄めかし型」取調べという仮説が生成できたことから、研究計画を修正し「研究計画の概要」に示したとおり、「仄めかし型」取調べのコミュニケーション上の特徴を解明するための比較研究を優先して行うこととした。 当初予定していた模擬取調べ実験(ないしはそれに代わる実証データの収集)については、本年度得られた知見を踏まえてより効果的に実施できるものと期待できる。このため研究の実施状況としては、当初予定どおり「概ね順調」ないしは予定よりも「やや効果的に」進展していると自己評価するものである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果をふまえ以下の研究を実施する。(1)昨年度より開始したイギリス、アメリカ、および日本の取調べ技法の比較分析を継続することによって、特に日本の取調べ実務におけるコミュニケーションの構造的特性と、そこに作用する自白圧力の特性の解明を目指す。一昨年度後半から開始された最高検察庁による知的障害者を対象とした取調べ可視化の試みに参与する機会を通して得られた知見、昨年度実施したイギリスおよびアメリカでの調査などの結果もふまえつつ、日本型取調べの特徴をより詳細に解明する。 (2)日本型取調べの特性をより精緻かつ具体的に理解するために、取調べ経験者(被疑者・取調官)へのイン タビュー調査を実施する。 (3)以上の知見をふまえ、日本型取調べのコミュニケーション上の特性およびそこに作用する自白圧力の特性のモデル化を試みる。 (4)この知見に基づき、日本の捜査実務において現実的に機能する適切な被疑者面接技法のプロトタイプを提案し、模擬取調べ実験を実施するとともに、その妥当性について取調べ経験者(被疑者・取調官)から意見聴取を行う。
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