研究領域 | 法と人間科学 |
研究課題/領域番号 |
23101006
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
厳島 行雄 日本大学, 文理学部, 教授 (20147698)
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研究分担者 |
原 聰 駿河台大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (00156481)
北神 慎司 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (00359879)
高橋 雅延 聖心女子大学, 文学部, 教授 (10206849)
伊藤 令枝 日本大学, 理工学部, 助教 (60548056)
室井 みや 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (70339240)
山田 寛 日本大学, 文理学部, 教授 (80191328)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 目撃証言 / 耳撃証言 / スキーマ / 顔の記憶 / 識別の正確さ / バイアス要因 / 皮膚感覚 |
研究実績の概要 |
2012 年度は比較的充実した実績を残すことができた。推定変数研究においては、スキーマの目撃記憶に及ぼす影響に関して、2本の英文論文を脱稿させた。この研究では、従来、静的なシーンの記憶を利用してスキーマの記憶に及ぼす影響研究が多いなか、動作のスキーマを検討材料として、実験的研究を行った。行為のスキーマにもシーンのスキーマと同様の記憶錯誤への影響があることを明らかにした。 また顔の記憶の基礎的研究として、顔の全体処理と部分処理の再認記憶への影響が検討された。また眼球運動とエピソード記憶との関連も検討が進んだ。 耳撃記憶においては、非言語的な音声情報から発声者の声を識別できるかどうか検討し、それが可能なことが示された。さらに、今回の耳撃研究の刺激作成が進み、次年度の実験研究の準備ができたところである。 システム変数研究においては、識別の手続によって誤った識別を生みやすいことが分かっている。しかし実際の識別手続の問題は極めてブラックボックス的であり、そのために研究者側としては、調書等から推測される要因の検討を行わざるを得なかった。そのような要因のなかでも重要な問題は識別時の誘導要因である。そこで、一つはダブルブラインド法による識別とそうでない場合、もう一つは識別前の事前情報が識別の正確さに及び押す効果を検討した。これらは現在論文として作成中である。さらに、識別後の確証的フィードバック効果もほぼ実験が終わり、こちらも現在論文作成中である。 また、日本固有の事件としての痴漢事件の問題に焦点を当てた、皮膚感覚の鋭敏さの実験的検討が進み、こちらも学会発表が行われた。目撃証言の心理学および耳撃証言の心理学まで射程に入れての研究計画が滞りなく進んでいると言える。ただ、この展開からどのように成果を収束させていくのかという問題もあり、これは来年度の課題となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、目撃証言の信用性に関わる諸要因を検討し、特にシステム変数とされる識別時に関わる正確性への影響要因を検討して、識別方法や尋問方法に関するガイドラインを提案することにある。もちろん、このような提言は本研究の成果だけで完成させることはできない。諸外国の研究成果や制度設計に関する情報も収集しつつ、このガイドラインの完成を目指すことになる。現在は、過去2年の研究結果の自己点検ということになるが、すでに全体の中間発表においてその成果を全体会議で開示したが、研究業績の方は相応の成果を生み出していると言えよう。ただ、制度設計の問題については、25年度以降の検討を法学系の研究者とともに検討することになる。また、中間発表での質疑で出てきたのが、ガイドラインだけを用意するだけではなく、この領域の専門家証言を行えるようなエキスパートの養成をどうするのかということが議論され、これを裁判実務で実際に経験を積んでいる目撃班の厳島を中心に、教育プログラムを実践を通して開発することが提案された。 以上のように、個々の研究と制度設計、人材教育という社会との関わりを考慮した研究に関しても積極的に行うことが提案された。このような研究スタイルは、個別の基盤研究等では困難であろうが、こういう新しい学問領域を形成するという企画においては、有効かつ社会への還元という意味で、重要と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
目撃証言の正確さを規定する推定変数研究に関しては、現在の方向性を失わずに個別の研究を推進していく。ただ、重要なのはシステム変数の要因の検討と、諸外国の研究成果のまとめである。こちらが実際の社会的問題解決、特に誤判を起こさせないためにも、重要なテーマである。この点に関しては、BrandonGarrettの"Convicting Innocent" 2011が極めて詳細な現実の問題の分析を行っており、翻訳する予定である。誤判が起こりえる要因の分析とそのような要因をきちんと社会に伝えていく仕事、そして司法に対してはガイドラインの周知とその方法の採用を訴えていくことをしなくてはならない。そのために今後は、こちらの知識の体系的整理を続ける必要がある。 次に、来年度から展開される専門家証言を行える人材の育成プログラムの開発が重要な課題となる。こちらはエキスパート教育を受けたい人材を募集し、合宿形式で事件における目撃証言の分析を行い、問題点を整理し、その要因の検討事件計画を立て、さらに報告書を書く、報告書に関する発表という一連の課題を行う。この一連の流れを専門家としてこなせるように、実際の事件に近い資料を用意し、これに関与した心理学者による教育、そしてプログラムの開発を行う。最終年度までに、このプログラムを完成させることを計画している。
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