本研究は法学・情報学・心理学の共同により新しい裁判過程可視化システムの構築を目指し、刑事訴訟法上の検討を通じて法廷内外における社会実装の可能性を検討するものである。本年度は最終年度であり、システムの開発、個別事例の検討を行いつつも、全体的な理論的な考察を重点的に行った。 1 理論的考察 本システム(KTH)ならではの価値は(1) 時系列(タイムライン),供述の変遷過程,有利・不利の違いが一括で表示され,理解しやすい、(2) アニメーションよりも,創造的ではない(より正確である)、(3) したがって、作為が入りにくい、(4) スライド・パワーポイント・写真よりも,量的な視点が,より明確になる、といった点にあるが、こうしたシステムが法廷で利活用可能であるかどうかの検討をアメリカ刑事訴訟法におけるアニメーション使用の法理との比較によって検討した。KTHで示す内容が実質証拠であるか展示証拠であるかという問題を踏まえることが重要である。 2 システム開発 認知的負荷を低減する視覚的工夫と供述変遷の視覚化に必要な機能をKTHに搭載することができた。その代表的なものはフラグメントウィンドウとサーチ機能である。前者は、膨大な資料を電子的に多重に格納した上で、クリック1つで元のデータを呼び出すものであり、見た目のスッキリ感の増大とデータリンクによる信頼感の増大を両立させる機能である。サーチ機能は膨大なデータから自分自身が見たいと思うデータを検索するための機能である。 3 個別事例の検討 第一審判決で有罪となった事件について新たに分析を行った。この事件においても、被疑者は自白と否認を繰り返していたため、その変遷をいかに分かりやすく図示し、どのような圧力がそうした変遷を引き起こしたのかを考察することを目標とした。複線径路と複数の時間次元を用いた図を工夫した結果、有罪仮説の誤りを図示しやすくなった。
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