計画研究
手続き二分のされていない日本の裁判員裁判において、裁判員は有罪無罪判断などの事実認定を行う前にもっぱら量刑判断に用いられるべきさまざまな情報に触れる。これらの中には、触れる人に怒り、悲しみ、嫌悪などのネガティブな感情を喚起させる情報が含まれることが多い。本研究では、このような情報の一つである被害者遺族の意見陳述が、裁判員にネガティブ感情を喚起し、有罪判断を増加させる可能性について検討した。我々のこれまでの研究は、模擬裁判実験に裁判員の役で参加した被験者に、このことが実際に起こることを示した。一方で、模擬裁判員に十分な説示が与えられた場合には、感情の喚起や有罪判断の増加が生じないことも示してきた。本研究では、皮膚電気反射などの生理指標を用いることで、被験者の報告に頼らずに感情の喚起をモニターし、説示がネガティブ感情の喚起やそれによる有罪判断の増加を抑える効果について検討した。被験者は、刑事裁判の原則についての説示や意見陳述を有罪無罪判断には用いてはならないことなどについての説示を受けたのちに、殺人事件の裁判の概要を視聴した。被告人は無実を主張しており、提示された証拠は、すべて間接証拠で、被告人の有罪を十分に証拠付けるものはなかった。被験者の半数には被害者遺族の意見陳述が示された。ついで被験者は、有罪無罪の判断などの裁判員としての判断を求められ、さらに感情状態などについての質問紙に回答した。この間被験者は、プローブを装着し、皮膚電気反射(GSR)、脈波が計測され、さらに赤外線カメラによって顔の表面温度が測定された。各生理指標には、犯行(ペティナイフによる刺殺)の記述や被害者遺族の意見陳述など感情の喚起が予想されるタイミングにおける変化は見られなかった。また感情状態の質問紙や有罪判断率に意見陳述の有無による相違は見られなかった。これらにより、説示の効果が確認された。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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心理学研究
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Psychiatry, Psychology and Law
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