計画研究
これまでに研究代表者は、フェライトと呼ばれる磁性酸化鉄のナノ粒子をコアに持つ分散性ポリマー被覆磁性ビーズ(半田ビーズ)を独自に開発し、薬剤などの生物活性を有する低分子化合物の標的タンパク質をアフィニティ精製によって単離・同定する技術を構築してきた。本研究課題では、半田ビーズを利用する薬剤標的タンパク質の単離・同定技術を多様な生物活性と複雑な構造を有する天然物リガンドに適用し、天然物リガンドが示す生物活性の生体内作用機構、及び天然物リガンド標的タンパク質が関与する生体反応の制御機構やシグナルネットワークの解明を目指している。平成25年度では、最も古い天然由来の薬剤であるサリチル酸の生体内作用機構の解明に取り組んだ。サリチル酸はアセチル化サリチル酸であるアスピリンとともに非ステロイド性抗炎症薬に分類されるが、アスピリンとは異なる抗炎症作用機構が示唆されている。サリチル酸固定化半田ビーズを用いたアフィニティ精製により、サリチル酸に特異的に結合するタンパク質としてフェロキラターゼを同定した。フェロキラターゼはヘム生合成経路において、ヘム前駆体プロトポルフィリンをヘムに変換させる酵素である。そこで、サリチル酸の構造異性体を用いて酵素活性、及びミトコンドリア活性を調べたところ、サリチル酸特異的にフェロキラターゼの酵素活性、及びミトコンドリア活性が阻害された。また、ゼブラフィッシュを用いてヘム合成の変化を調べたところ、サリチル酸によってヘム合成が阻害されたことがわかった。さらに、サリチル酸とフェロキラターゼとの共結晶構造解析により、サリチル酸がフェロキラターゼの構造変化を誘起することを見出した。以上の実験結果から、サリチル酸新規標的タンパク質としてフェロキラターゼを見出し、サリチル酸が示す抗炎症作用の分子機構の一端を解明した。
2: おおむね順調に進展している
これまで適用してきた半田ビーズに対する薬剤などの生物活性低分子化合物の固定化条件を天然物リガンドに適用し、天然物リガンド固定化半田ビーズが確実に作製できるよう検討してきた。さらに、アフィニティ精製によって得られた結合タンパク質(群)の機能を生化学的に解析することで、天然物リガンドの標的タンパク質を同定し、天然物リガンドが持つ生物活性の生体内作用機構を解明してきた。平成25年度では、本研究領域の班員などと連携をとり、特異な生物活性を有する天然物リガンドを半田ビーズに固定化させる手法を検討し、天然物リガンド固定化半田ビーズを作製した。また、非ステロイド性抗炎症薬として知られているサリチル酸の標的タンパク質を同定し、サリチル酸の抗炎症作用機構の一端を明らかにした。
継続して半田ビーズに対する低分子化合物やペプチド、タンパク質など、リガンドの多様性に沿った固定化条件を精査し、多様な官能基を有する天然物リガンドを効率的かつ確実に半田ビーズ上に固定化できる汎用的手法の確立を目指す。天然物リガンド固定化半田ビーズを用いるアフィニティ精製により、細胞粗抽出液などの適切に調整したタンパク質ライブラリーから天然物リガンドの結合タンパク質(群)を単離・同定する。このとき、天然物リガンド(活性体)とともに不活性体を用いた対照実験や、過剰量の天然物リガンドを利用した溶出実験、及び競合阻害実験などから得られた情報を総合的に解析し、結合タンパク質(群)を選定する。得られた結合タンパク質(群)の生化学的解析などを通じて、天然物リガンドの標的タンパク質を同定し、天然物リガンドが持つ生物活性の詳細を明らかにする。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 8件) 図書 (3件)
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