研究領域 | 天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 |
研究課題/領域番号 |
23102006
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
井本 正哉 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (60213253)
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研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
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キーワード | アンドロゲンアンタゴニスト / オートファジー / がん / パーキンソン病 / 天然物リガンド |
研究概要 |
がんおよびパーキンソン症の疾患細胞モデル系を用いて,その細胞表現系を変化させる天然物リガンドを探索し,その化学生物学的解析から発症機構の解析と疾患治療薬シードの提案を行なう. ①前立腺がんは男性ホルモンであるアンドロゲンによって悪性化する.そこで,微生物二次代謝産物からアンドロゲンアンタゴニストの探索を行ない,耐性細胞に有効な治療薬シードの開発を目的とした.その結果,タイ土壌由来放線菌BB47株の培養液に目的の活性を見出した。活性物質の単離精製及び構造解析を行った.その結果,既存のARアンタゴニストとは異なる構造を持つ新規化合物536-Dを取得した. ②我々はこれまでにオートファジー制御化合物を探索し,Xanthohumol(XN)が目的の活性を有することを見出した.本研究では XNのオートファジー制御活性の詳細な機構の解明と抗がん活性発現機構解析を目的とした. 15種類のヒト腫瘍細胞株を用いたパネル試験を行った結果,XNに対して高い感受性を示す6つの細胞株を見出した.またこれらのがん細胞が,autophagy阻害剤であるBafilomycin A1及びChloroquineに対しても高い感受性を示した.一方でautophagosomeの形成に関わるAtg7をノックダウンしても、これらの細胞種に対して細胞死を誘導しなかったことから,XN高感受性がん細胞種はautophagosomeの蓄積が原因で細胞死が誘導されている可能性が示唆された. ③近年,オートファジー細胞死が注目されている.そこでオートファジー細胞死誘導剤を探索することを目的とした.そのためにまず,実際に既存の制がん剤がオートファジー細胞死を誘導するのか検証を行ったが,既存の抗がん剤はオートファジー細胞死を誘導しないことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①前立腺がん治療薬シードの探索を目的としたアンドロゲンアンタゴニストとして微生物由来の新規化合物を発見したことは目標以上の成果であった.さらに構造類似の新規化合物の取得もほぼ終了しており,細胞レベルでのアンドロゲンアンタゴニスト活性も確認できていることから極めて順調に進行している. ②XNについては15種類のがん細胞の感受性をウエスタンブロットによるPARPの切断とFACSによるSubG1の割合から算出しており,感受性の高いがん細胞の遺伝的背景からある程度K-Ras変異との相関が観察された.このことはK-Ras変異とオートファジーの関係を検証する足がかりとなり,順調に進んでいる. ③制がん剤にオートファジー細胞死を誘導する活性が見られないを検証できたことから,オートファジー細胞死誘導物質の探索研究の意義を検証することができた.しかし,その後,オートファジー細胞死誘導物質探索のためのdoxycyclin(Dox)誘導性のATG7 shRNAを発現する細胞を樹立することを目標にしたが,目的の細胞は返時点ではまだ構築できていない.現在shRNAの配列の設計から検証中である.
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今後の研究の推進方策 |
① アンドロゲンアンタゴニストの探索:これまでにタイ土壌由来放線菌BB47株の培養液からアンドロゲンアンタゴニスト活性を有するBB47-536DおよびEを単離した.この2化合物はUVおよび分子量情報から新規化合物と推定される.現在その平面構造の解析を進めている.また,既存のアンドロゲンアンタゴニストに対する耐性を示す変異アンドロゲン受容体を構築し,BB47-536DおよびEについて細胞レベルでの耐性克服活性についても評価する. ② Xanthohumol(XN)の抗がん活性評価:これまでにXNはVCPのNドメインに結合することでオートファジーを制御することを見いだした.そこで,本研究ではVCP阻害剤としてNドメインに結合するXN,D1ドメインに結合する Eeyarestatin I (ESI),D2ドメインに結合しATPase活性を阻害するDBeQを用いて,VCPの機能に対する影響とその抗がん活性を評価する. ③ オートファジー細胞死誘導物質の探索:近年オートファジー細胞死が注目されている.しかし,既存の抗がん剤にはオートファジー細胞死を誘導する薬剤が存在しないことを見いだした.そこで,新たな作用機構を有する抗がん剤の開発を目的にオートファジー細胞死の誘導剤を探索する.そのために,doxycyclin(Dox)誘導性のATG7 shRNAを発現する細胞を樹立する.昨年は同様の実験を行なったが結局細胞が構築できなかった.そこでATG7をノックダウンするshRNAの配列を新たに設計し,このシステムを用いてオートファジー細胞死誘導活性を有する天然物リガンドを微生物培養液から探索する.
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