研究領域 | 天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 |
研究課題/領域番号 |
23102006
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
井本 正哉 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (60213253)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アンドロゲンアンタゴニスト / オートファジー / キサントフモール / VCP |
研究実績の概要 |
① アンドロゲンアンタゴニストの探索:タイ土壌由来放線菌BB47株の培養液からアンドロゲンアンタゴニスト活性を有する5化合物を単離し,これらの化合物の平面構造を決定した.これらはいずれも新規構造を有する22員環マクロライドであり,お互いに構造異性体であった.さらに,これらの化合物の中で比較的安定性の高かった化合物については細胞レベルでもアンタゴニスト活性を有することを明らかにした. ② Xanthohumol(XN)の抗がん活性評価:15種の細胞株についてVCP阻害剤であるXNおよびESI,DBeQに対する感受性試験を行った.その結果,VCPのD2ドメインに結合するDBeQはすべての細胞に細胞死を誘導したことから,D2ドメインのATPase活性が細胞の生存必須であることが示唆された。また,VCPのNドメインに結合するXNはすべての細胞に対してAutophagyを阻害した。さらにESIが結合するD1ドメインがPoly-Ubiquitin化タンパク質の分解に重要であることが示唆された。 ③ オートファジー細胞死誘導物質の探索:オートファジー細胞死誘導物質のスクリーニング系構築を目的に,レトロウイルスベクターを用いshRNA-Atg7安定発現細胞株を取得することを目的とした.HEK293T細胞を用いた一過的な遺伝子導入実験において,設計したshRNA-Atg7発現プラスミド全6種のいずれもRNA干渉能を示した.決定した条件に基づきレトロウイルスを作製し,ペアレントとなるA549/PC3細胞へ感染させることでAtg7 K.D.細胞株の取得を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① アンドロゲンアンタゴニストの探索:タイ土壌由来放線菌BB47株の培養液から当初不安定で単離精製が困難であった5種類の新規化合物を単離することができ,また,これらの化合物の平面構造を決定しており.極めて順調に進行している.また,立体構造決定に向けた大量調製条件も決定しており,立体構造決定に向けた取り組みも順調に進んでいる. ② キサントフモールの抗がん活性評価:小分子化合物を用いてキサントフモールの標的タンパク質であるVCPの各ドメインの役割を明らかにすることができた.さらにキサントフモール高感受性がん細胞を用いて,キサントフモールと相乗効果を示す情報伝達系阻害剤の探索から,ある種のプロテインキナーゼがキサントフモールと合成致死効果を示すことがわかった.このことはキサントフモールの細胞死誘導機構解明に一歩近づいたことになる. ③ オートファジー細胞死誘導物質の探索:オートファジー細胞死誘導物質のスクリーニング系構築を目的に,レトロウイルによるAtg7ノックダウン細胞の構築を検討しているが,なかなか思うように進行していない.しかし,ようやくAtg7をノックダウンできるshRNAプラスミドの配列を決定することができた.残る課題である感染効率の上昇を検討中である.
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今後の研究の推進方策 |
1)新規アンドロゲンアンタゴニストの薬理作用:我々はすでに放線菌培養液からアンドロゲンアンタゴニスト活性を有する5種類の新規マクロライド化合物の平面構造を決定している.このなかで最も生産量の多い化合物Aの立体構造を決定する.また,これら5化合物の細胞レベルでのアンドロゲンアンタゴニスト活性評価,およびエンザルタミド耐性克服活性を検討する. 2)オートファジー阻害物質キサントフモールの抗がん作用解析:キサントフモールはK-Ras変異がん細胞に対して高い抗がん活性を発揮する.そこで,キサントフモールに低感受性のがん細胞に活性型変異K-Rasを発現させて,その細胞でのオートファジー誘導とキサントフモール感受性の変化を検証する.また,キサントフモール高感受性がん細胞を用いたin vivo抗腫瘍活性を測定する. 3)ベータカテニン変異がん細胞に細胞死を誘導する化合物の作用機構解析:我々はすでにV-ATPase阻害剤がベータカテニン変異がん細胞に細胞死を誘導することを見出している.そこでこの作用が実際にベータカテニン変異と関係しているかどうかを検証する目的で,ベータカテニンをノックダウンさせた細胞,もしくは活性型変異ベータカテニン発現させた細胞を用いて,V-ATPase阻害剤の効果を検討する. 4)オートファジー細胞死誘導物質の探索:オートファジー細胞死の誘導剤を探索するために,sh-ATG7発現レトロウイルスを作成し,これを細胞に感染させることでオートファジーを阻害した細胞評価系を構築する.この細胞系を用いて微生物培養液からオートファジー細胞死誘導物質を探索する.
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