研究領域 | 天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 |
研究課題/領域番号 |
23102007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松永 茂樹 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (60183951)
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研究分担者 |
高田 健太郎 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (90455353)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 海洋生物 / 抗腫瘍性 / 細胞毒性 / 酵素阻害 |
研究実績の概要 |
海洋生物には、植物や土壌微生物由来の化合物とは別種の化合物を含むことが知られる。ケミカルバイオロジーは、生物に対する低分子リガンドの作用の観察およびその作用機序の解析を基礎とする研究領域で、その根幹に位置すべきは、ユニークな構造と比類のない作用機序を有する低分子リガンドの発見である。このようなリガンドなくして、生命現象の神髄に触れる生体内での相互作用を解析することはできない。本研究では、未開拓の海洋生物資源である海産無脊椎動物と海洋微生物から、抗腫瘍性を示す低分子リガンドの創出を行った。 まず、海底泥から分離した真菌Penicillium sp.に含まれるがん細胞に対する細胞毒性成分の探索を行い、2種の新規化合物を含む7種のジケトピペラジン誘導体を単離した。これらの化合物にはヒストンメチル基転移酵素阻害活性を示すことが知られているキートシン中の活性部位と共通構造が含まれたため、同酵素に対する阻害活性を調べ構造活性相関を明らかにした。ついで、深海性カイメンEpipolasis sp.から低濃度でがん細胞に対して細胞毒性を示す化合物を2種単離した。いずれも複雑な構造のマクロライドで、かつ、核磁気共鳴スペクトルにおいてシグナルを与えない部分が含まれるため構造決定は難航した。しかし、部分構造がカイメン由来の既知化合物のspirastrellolideメチルエステル類と似ていたため、メチルエステル化したところ同一物質を与えた。Spirastrellolide類が遊離カルボン酸型として得られた初めての例であり、spirastrellolide類の細胞毒性がメチルエステルとほぼ同等であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は生命現象の解析に資するために有用な新規物質を発見することで、同時に、抗腫瘍物質の開発につながることも期待している。本年度は、海洋性真菌および深海性カイメンから細胞毒性を示す化合物を発見した。いずれも、過去に見いだされた化合物の類縁物質であり、新規骨格の発見には至っていないが、どちらの場合も構造活性相関を明らかにし、ケミカルバイオロジー研究にある程度の貢献ができたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞毒性および酵素阻害活性スクリーニングにおいて有望な活性を示す化合物が見いだされており、引き続き活性成分の探索、構造決定、構造活性相関の検討等を通して、有用物質の創製に向けた研究を進める。
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