研究概要 |
当研究室に構築した天然物抽出エキスライブラリーを用いて,ウィント,ヘッジホッグ,ヘス等のシグナル分子を標的とした天然物の探索を行った. 1.ヘッジホッグシグナル阻害作用に関してルシフェラーゼ試験法により評価する方法を用いたスクリーニングにより,トウダイグサ科マングローブの仲間Excoecaria agallocha葉部より活性成分として新規フラボノイド配糖体ゲワインを単離した.本化合物はPTCHやBCL2のmRNAの発現およびタンパク質レベルを低下させることがリアルタイムPCRおよびウェスタンブロット実験の結果明らかとなった.またゲワインはSmoのsiRNAによる遺伝子発現抑制下においてもPtchのmRNA発現を抑制したため,Smoの影響を受けることなくHhシグナルを抑制することがわかった.さらにゲワインは転写因子GLIの核内への移行を阻害することによりHhシグナルを阻害することも明らかとなった.一方,ベンケイソウ科Bryophyllum pinnatum葉部より活性成分として2種のフラボノイド配糖体を単離した.これらもGLI1の転写活性を濃度依存的に阻害し,ヘッジホッグシグナル経路の標的であるPTCHやBcl2タンパクの発現を抑制し,PtchのmRNAの発現を抑制した. 2.ウィントシグナルを標的としたスクリーニングにより,センダン科Xylocarpus grantumより活性成分として新規リモノイド型ジテルペン2種を単離した.これらはTCF/βカテニン転写活性を濃度依存的に阻害し,2種の大腸がん細胞(SW480, HCT116)に対して対照細胞(293細胞)より強い細胞毒性を示した.また千葉県産放線菌よりノカルダミン等の含窒素環状ラクタム化合物を活性成分として単離した. 3.ヘス1タンパクに結合する天然物のスクリーニングにより,ジンチョウゲ科植物より3種のフラボノイド配糖体を単離した.このうちの1種はヘス1二量体形成阻害作用を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ウィント,ヘッジホッグおよびヘスシグナルに対するスクリーニング研究の成果として,タイおよびバングラデシュ産植物,および千葉県産放線菌からから予想よりも数多くの活性化合物を単離した.さらにそれらの化合物の分子レベルでの作用機構についての解析も行い,興味深い結果が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
ウィントシグナル,ヘッジホッグシグナル,およびヘスシグナルに関してさらに継続してスクリーニング研究を行っていく.これまでに得られた興味深い活性成分については,その分子レベルでの作用メカニズムの解析に関する実験をさらに進展させ,活性化合物の作用点や標的分子を解明するための実験方法を検討する.
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