研究概要 |
海洋天然物bryostatin 1(bryo-1)は副作用の少ない抗がん剤として期待されているが,天然からの単離収率は極めて低く,供給面が大きな問題となっている.本研究代表者らは最近,天然発がん促進物質であるaplysiatoxinの単純化アナログ(aplog-1)が,プロテインキナーゼCδにnMオーダーで結合し,bryo-1に匹敵するがん細胞増殖抑制活性を示すことを見いだした.本研究では,aplog-1をリードとして,合成が容易で化学的に安定なhryo-1等価体を開発するとともに,本化合物を分子プローブ化することによってその標的タンパク質群を明らかにし,創薬につながる知見を得ることを目的としている.今年度の研究成果は以下の通りである. Ablog-1のスピロケタール部分の12位にジメチル基を導入した化合物(DM-aplog-1)を,rhydroxycin namicacidから27段階(総収率1.5%)にて合成した.DM-aplog-1の各種生物活性評価を行なったところ,数種のがん細胞に対してaplog-1よりも顕著に高い増殖抑制活性を示すことが判明した.さらに,本化合物をマウス皮膚における発がん2段階試験に供したところ,ポジティブコントロールである12-0-tetradecanoylphorobol13-acetate(TPA)の5倍量塗布によってもまったく腫瘍を生成せず,TPAとの同時投与によってTPAによる腫瘍形成を有意に阻害した. 一方,aplog-1のスピロケタール部分の4位に不斉メチル基を立体選択的に導入した化合物(4-Me-aplog-1)を,既知のエポキシドユニットから15段階で合成した(総収率2.4%).4-Me-aplog-1の各種生物活性評価を行なったところ,いずれの活性もaplog-1と比べてほとんど変わらなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,aplog-1の構造活性相関研究の一環として,スピロケタール付近に疎水性基を導入した誘導体を複数合成し,各種生物活性を測定した.12位へのジメチル基の導入は,がん細胞増殖抑制活性を増強することが判明したが,そのこと以上に,分子疎水性度を高めた12,12-dimethyl-aplog-1が,in vivoで発がん促進活性を示さなかった実験事実は,大きな研究成果と考えている.一方,4位への置換基効果(4-Me-aplog-1の各種生物活性の測定)も検討することができ,当初の目的をほぼ達成できたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果を受けて,来年度は,aplog-1のがん細胞増殖抑制活性をさらに高めた誘導体の開発を行なう.特に,スピロケタール部位の疎水性度の増強によって発がん促進活性がもたらされないことから,スピロケタール付近における構造修飾を重点的に行なう.さらに,側鎖部分の不斉メトキシ基や3位ヘミアセタールの水酸基が発がん促進活性に及ぼす影響についても検討し,bryo-1に匹敵する高いプロテインキナーゼC結合能を示す抗がん剤シーズの開発を目指す.
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