計画研究
海洋天然物bryostatin 1 (bryo-1) は,副作用の少ない抗がん剤として期待されているが,天然からの単離収率は低く,供給面が問題となっている.本研究代表者らは,天然発がん促進物質であるdebromoaplysiatoxin (DAT) の単純化アナログ (10-Me-aplog-1) が,プロテインキナーゼC (PKC) に強く結合し,bryo-1を凌ぐがん細胞増殖抑制活性を示すことを見いだした.本研究は,10-Me-aplog-1の構造を最適化するとともに,aplog-1を分子プローブ化することによってその標的タンパク質群を明らかにし,創薬につながる知見を得ることを目的としている.まず,10-Me-aplog-1の構造最適化を目的として,4,10-diMe-aplog-1をm-hydroxycinnamic acidから25段階,0.53%の総収率で合成した.Bryo-1の主たる標的の一つであるPKCδへの結合能ならびに39種類のヒトがん細胞に対する増殖抑制能を評価した結果,本化合物の活性は10-Me-aplog-1と同等であったが,マウス皮膚発がん二段階試験では,DATの5倍量の塗布によって僅かではあるが有意に腫瘍形成を促進した.これより10-Me-aplog-1の4位以外へのメチル基導入の必要性が示唆された.また,DATの側鎖の不斉メトキシ基を除去したdemethoxy-DATを合成したところ,DATよりも発がん促進活性は有意に低下し,逆にがん細胞増殖活性は約2倍に高められた.さらに,aplog-1のがん細胞増殖抑制機構を明らかにする目的で,PKCδへの結合能を持たないaplog-1誘導体を複数合成した.これらの39種類のヒトがん細胞に対する増殖抑制試験を行った結果,約10種類のがん細胞において,PKCδ結合能と増殖抑制活性との間に高い相関が認められた.
2: おおむね順調に進展している
本年度は、aplog-1のがん細胞増殖抑制活性における構造―活性相関研究をさらに展開することにより,新たに側鎖のメトキシ基の重要性を明らかにすることができた.さらに,protein kinase Cδ (PKCδ) に結合しないaplog-1誘導体を合成することによって,39種類のヒトがん細胞の中で,aplog-1に感受性の高いものが約10種類存在することが明らかになった.これより,aplog-1の標的の一つがPKCアイソザイムあるいはPKC C1ホモロジードメインを有するタンパク質であることが強く示唆され,今後のaplog-1の標的探索ならびに誘導体合成への指針が得られた.以上のことから,本研究はおおむね順調に進展していると考えている.
本年度の研究結果を受けて,来年度は,10-Me-aplog-1のがん細胞増殖抑制活性をさらに高めた誘導体の開発を行う.具体的には、スピロケタール部位の12位に不斉メチル基を導入し,さらなる活性の向上を目指す.同時に,10-Me-aplog-1をグラムスケールで大量合成し,in vivoでの抗がん試験の準備を行う.一方,aplog-1を半田磁性ビーズに結合させた分子プローブを合成することにより,aplog-1の標的タンパク質群を明らかにし,創薬につながる知見を得る.
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.orgchem.kais.kyoto-u.ac.jp/