研究領域 | 天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 |
研究課題/領域番号 |
23102011
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
入江 一浩 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00168535)
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研究分担者 |
柳田 亮 香川大学, 農学部, 助教 (10598121)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アプリシアトキシン / プロテインキナーゼC / 発がんプロモーター / がん細胞増殖抑制 / ブリオスタチン |
研究実績の概要 |
Bryostatin 1(bryo-1)は、副作用の少ない抗がん剤として期待されているが、天然からの単離収率はきわめて低く、供給面が大きな問題となっている。一昨年、天然の発がんプロモーター・debromoaplysiatoxin(DAT)の単純化アナログである 10-Me-aplog-1が、DATに匹敵する高いプロテインキナーゼCδへの結合能、ならびにbryo-1よりも顕著に高いがん細胞増殖抑制活性を示すこと、一方で発がん促進活性を示さないことを見いだした。 10-Me-aplog-1の26種のヒトがん細胞株に対する増殖抑制のプロファイルは、既存の抗がん剤とはまったく異なっていたことから、新しい作用機構を有している可能性が高い。そこで移植がん動物モデルを用いた抗がん試験ならびに作用機構解析を進める目的で、10-Me-aplog-1の合成経路の改善を行った。当初は28工程の反応が必要であったが、連続不斉中心の構築の簡略化および保護基の不要な反応条件を検討することにより、5工程減らすとともに各工程の収率を上げることに成功した。その結果、in vivoでの抗がん試験に必要な高純度試料を数百ミリグラム確保できた。 一方、10-Me-aplog-1の更なる構造最適化を行った。昨年、10-Me-aplog-1のスピロケタール部分の4位にメチル基を導入したところ、がん細胞増殖抑制活性はあまり増強されず、逆に、弱い発がん促進ならびに炎症活性が認められた。そこで、10,12-diMe-aplog-1を m-hydroxycinnamic acidから約30工程、総収率0.5%で合成した。本化合物のがん細胞増殖抑制活性は、10-Me-aplog-1よりも数倍高く、発がん促進活性ならびに炎症作用をまったく示さなかった。本化合物は、これまで合成したaplog類の中で最も有望な抗がん剤シードと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、10-Me-aplog-1のin vivoでの抗がん試験に必要な高純度試料を、数百ミリグラム確保することに成功した。これより、本化合物を用いて、in vivoでの抗がん試験ならびにメカニズム解析を行う目処がついた。また、10-Me-aplog-1のさらなる構造最適化を行い、特定のがん細胞種に対して、micromolar以下の濃度で増殖抑制を示し、副作用である発がん促進活性ならびに炎症作用をまったく示さない10,12-diMe-aplog-1を同定することができた。これより、複雑な天然物の構造を適切に単純化することによって、必要な生物活性(特定のがん細胞に対する増殖抑制活性)のみを取り出すことが可能であることを、実験によって示すことができたと考えている。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果を受けて、来年度は、10-Me-aplog-1のin vivoでの毒性評価ならびに抗がん試験とともに、詳細なメカニズム解析を行う。メカニズム解析は、プロテインキナーゼC(PKC)アイソザイムのみならず、PKCのリガンド結合ドメイン(C1ドメイン)を含むRas-GRP、DGK、n-chimerin、unc-13、PKD も対象とし、10-Me-aplog-1に対する感受性及び非感受性がん細胞株におけるそれぞれの発現量を定量する。さらに、これら以外の標的タンパク質も視野に入れ、半田ビーズを用いた標的探索を行い、5年間の研究成果をとりまとめる。
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