計画研究
本年度の研究においては、コンパクト分子プローブ法による植物ホルモン類縁体の新規標的タンパク質の精製に成功した。同様に、両鏡像体型分子プローブと遺伝子変異株を用いた生物検定試験を組み合わせることで植物病原菌由来植物毒素の新規標的発見の可能性を見いだすことが出来た。また、遺伝子トランスフェクション細胞系を用いるレポーターアッセイによって、ヒトの内因性ステロイド化合物の新規標的の同定も行った。これらの例から、生体内においては、ある天然物リガンドが構造修飾されることによって、全く異なる生物活性と分子標的を持つに至るという、我々の提唱する「鍵束」説を証明する知見を得ると共に、「鍵束」から目的に応じた「鍵」を取り出すために、生体が用いる巧妙な戦略にもアプローチすることが出来た。このように、本年の研究には大きな進展があり、また、これら成果は、内因性生理活性リガンドの生体内活性制御機構に関する新知見に繋がる発見でもある。これらの研究成果は、単なる標的同定にとどまらず、そこから、生理活性リガンドの活性調節機構に関する新しい化学的知見を得るための分子的基盤をなすものである。新学術領域「天然物ケミカルバイオロジー」の目的は、生理活性リガンドの標的同定の成功例を増やし、統一的知見の蓄積による標的同定の成功率向上を目指すと共に、そこから何らかの新しい科学的知見を得ることで、それを足がかりとして生理活性物質に関する科学を一段上のステージに引き上げることである。その観点から、本年度の成果は、まさにそのフラッグシップ的な内容となった。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究において、当初想定していた2つの天然物リガンドの標的決定をほぼ終了することが出来た。また、これによって、生体内における内因性生理活性リガンドの活性調節に新たな機構を提唱するための分子的基盤を構築することが出来た。研究は予想を大幅に上回る進展を見せている。
今後は、得られた成果を論文発表するために、バリデーション実験を重点的に遂行することになる。バリデーションのための異種発現系やRNAi実験などは予備実験を含めて遂行中であるが、今後実験場の困難に直面する可能性がある。その場合には、適宜、他の方策を採択することになろう。また、コンパクト分子プローブ法とアフィニティー精製法との効率の比較による、分子標的同定のための方法的指針を策定する必要がある。また、これと平行して、天然物リガンドの標的決定の先を見据えた展開を計画している。すなわち、上記の生体内活性調節機構のスイッチ機構の発見である。生体内で活性変化のスイッチを入れるメカニズムが発見できれば、創薬展開などの将来の応用を視野に入れた展開に道を開くことが出来よう。
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