研究領域 | 天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 |
研究課題/領域番号 |
23102012
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
上田 実 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60265931)
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研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / 天然物 / 標的同定 / 作用機構 |
研究概要 |
昨年までに、コンパクト分子プローブ(CMP)法による生理活性天然物の高選択的標識化について検討した。CMPは、非特異的標識を全く与えない極めて優れた方法である。しかし、タンパク質に標識を導入するためには共有結合の導入が不可欠で有り、そのために用いる化学反応の収率が、精製を行う際のタンパク質の収量を直接的に決定する。タンパク質の標識化に用いることが出来る化学反応は限られており、低収率(2%程度)の光親和性標識化法や、リジンやシステインなどの限られた官能基をもつアミノ酸残基が基質結合部位近傍に存在する場合にしか効率的な共有結合形成を期待できない、ヨードアセチル基、マレイミド基などが良く用いられる。標的同定には、質量分析で配列解析が可能な量(1 ng程度)の確保が最大の制約で有り、この標識化の低収率が標的同定の成否を分けるボトルネックとなっている。本年度の研究では、非特異的結合を与えないCMP法の特質を生かし、標識化後にプローブが共有結合した標的タンパク質を目印として、クロマトグラフィーによる精製を行うCMP-guided protein chromatography法を開発した。サイズの小さなCMPが結合したタンパク質は、非標識化タンパク質と同じ保持時間に溶出し、プルダウン法などと比較して標的タンパク質の回収量が劇的に改善されることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
標的タンパク質の標識化法として極めて優れた特質をもつCMP法も、微量タンパク質の同定には難題を抱えていた。それは、微量標的を対象とする場合、標識導入に用いる化学反応の収率が標的タンパク質の回収量を決定してしまう点である。これは、標的同定法の開発のために、どうしても解決しなければならない問題であった。 光親和性プローブで標識したタンパク質は、光親和性標識化の低い収率(数%)のため、プルダウン回収で全量のうちの一部しか回収できず、MS/MS解析に必要なサンプル量を確保できない。一方、2次元電気泳動法による標的精製では、タグを目印として泳動した標的タンパク質を全量回収可能であるが、一回の泳動実験でのサンプル添加量に厳しい制限がある。そのため、標的タンパク質に由来するスポットから標的タンパク質を十分量回収するためには、ゲルに添加するサンプルの純度を著しく高めておく必要がある。 そこで、非特異的結合を与えないCMP法の特性を活かし、標的タンパク質のみに導入された検出タグを目印としてクロマトグラフィーによる生成を行うCMP-guided protein chromatography法による精製を行った。本法ではタグを目印に同位置に溶出する標的タンパク質を全量回収可能である。本方法は、一般性の高い微量標的精製法として有用で有り、従来困難であった標的同定を容易にする方法である。
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今後の研究の推進方策 |
CMP-guided protein chromatography法によって、これまで困難であった標的同定を行う。特に、標的膜タンパク質に関しては、微量かつ可溶化条件の検討などの難題が付きまとう。可溶化の可否を簡便に判別できる方法を探索したい。また、特に多くの二次代謝産物を含有する植物細胞では、サポニンなどの影響で、超遠心による細胞膜画分の収量が低下するという問題が見いだされた。今後は、このような困難なケースに置いて、ケースバイケースに対応することで、信頼性を高める必要がある。
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