強力な抗腫瘍性活性を持つ海洋産マクロライドであるアプリロニンAの作用機序を検討してきた結果、この化合物は、細胞内でまず主要な細胞骨格タンパク質であるアクチンと結合して、1:1複合体を生成し、さらにこの複合体が別の細胞骨格タンパク質であるチューブリンと結合して三元複合体を生成することを引き金として抗腫瘍性を示していることが明らかとなっている。そこで、その三元複合体の構造情報を得るために次の実験を行った。 これまでの構造活性相関研究で明らかになっている三元複合体生成のための必須の部分構造である(1)マクロライド側鎖部と(2)トリメチルセリン基を持つ必要最小限の大きさの人工類船体を合成した。この化合物はアクチンとは天然物と同程度に結合したが、チューブリンとは結合しなかった。合成した化合物とアクチンのドッキング計算を行ったところ、チューブリンとの結合に重要なトリメチルセリン基付近の配座が天然物と大きく異なることが分かった。そこで、今後は分子設計に計算化学を大いに導入することにより、高活性が期待できるアナログの開発を行う。 アクチンとの結合に重要な側鎖部について、アクチンと強力に結合する他の天然物から導入したハイブリッド化合物については、その合成研究を行った。不斉プロパルギル化を鍵反応として側鎖部を合成し、マクロラクトン部となるカルボン酸化合物と連結し、分子内Ni触媒Crカップリング反応を用いて、必要な全ての炭素骨格を持つ重要合成中間体を合成した。今後は、官能基変換を経て目的とするハイブリッド化合物を合成する予定である。
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