計画研究
【円盤観測】VLT 観測により,HD100546周囲の原始惑星系円盤内にスパイラル状構造を新発見し,その励起源が未確認の惑星である可能性を示した。HD142527の原始惑星系円盤では,ALMA Cycle 0観測に基づくモデリングで円盤全体のガス量が相対的に減少していることが示され,最小でガス・ダスト比が約1に達する場所もあることがわかった。ASTE観測では,惑星系円盤から中性炭素原子禁制線を初検出した。赤外線超過に基づく研究では,中質量星の円盤寿命が小質量星に比べてやや短いことを初めて明らかにし,近赤外線で捉えられる円盤最内域と中間赤外線で捉えられる外側領域との間で継続時間に約4Myrの差があることも示した。【円盤構造とダスト成長の理論】前年度までに構築した高空隙率ダスト成長モデルを観測的に検証するため,高空隙率ダストの光学モデルを作成した。これを踏まえ多波長輻射輸送計算を行い,円盤各所のダスト進化の違いが作る縞々構造がサブミリ波でどう観測されるかを議論した。惑星が作るギャップ構造についても,その深さから惑星質量を見積る方法を提案した。また,紫外線照射により帯電した微小重力天体表面からの,静電力駆動のダスト放出に関する結果を発表した。円盤内でのケイ酸塩ダストの成長に関してミクロな観点から考察を進め,実験結果と整合的な結論を得た。【その他】エンベロープや形成途上円盤内での分子存在度変動に関する理論構築を進めた。降着衝撃波下での揮発性分子の昇華条件を数値計算により明らかにした。原始惑星系円盤における主要イオン分子の存在度を数値計算で求め,これを説明する解析解を導出した。特に,N2H+分子のCO昇華温度近傍での増加を示した。石英砂上でのクレーター形成実験を系統的に行い,イジェクタ速度分布が衝突速度に関係なくクレーター半径や重力加速度により規格化されることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
まずALMA観測については,当初予定に比べ,我々自身の計画に基づく新たなデータ取得が滞った。これはALMAのスケジューリング(長期技術検証観測を含む)によるもので,予見困難だった。一方で,長基線公開データを用いた論文をいち早く提出した他,円盤モデルなど解析に必要な道具立ての整備を進め,関連論文を複数提出した。ALMA以外の観測研究では,中性炭素原子サブミリ波輝線の初検出を発表した。また測光データに基づく円盤寿命の導出に関しては,予定していた近赤外線に加え中間赤外線からサブミリ波までの幅広い波長でのデータを扱い,円盤寿命の半径依存性にまで踏み込み多角的に行った。これらは想定以上の成果である。この他,宇宙科学研究所屋上望遠鏡用に開発した可視・近赤外線撮像カメラを用いた同時測光観測を予定通り継続し,円盤構造の短時間変動に関する手がかりを得つつある。ダスト成長に関しては,昨年度に確立した原始惑星系円盤内で作られる高空隙率ダストに関連し,観測との比較により力点を置いて研究を進めた。その結果,ダスト進化や惑星がつくるギャップ構造の理論モデルを観測的に検証する方法を順調に構築した。昨年度までの課題として残っていたダスト光学特性の詳しい決定に関しても,次年度以降につながる進展が得られた。ガス化学のモデリングについても,ALMA観測との比較を意識し,衝撃波領域での昇華・イオン分子存在度・重水素濃縮に関して,ほぼ想定通りの進捗が得られた。最後に衝突実験装置に関しては,昨年難航していた二段式水素ガス銃のサボ分離システムを完成させた。その結果直径1mm - 2mmの任意の種類の弾丸が,2-6km/sで加速可能となり,もう一つの目標であった氷・岩石混合物へのクレーター形成実験もこのシステムを用いて開始した。以上から,ほぼ各研究テーマで満遍なく,順調に進展していると評価した。
最終年度における全体の方向性として,これまで観測・理論・実験でそれぞれで得られた成果の相互利用を一層促進し,融合を図る。具体的には以下の通りである。まず観測面では,ALMAで取得されたデータ解析を継続する。Cycle 1/2/3で採択された観測計画の実施を待ち,これらの速やかな解析と成果発表をはかる。既に我々が構築した円盤モデル(特に惑星ギャップやダスト光学特性に関わるもの)をフル活用し,円盤構造の起源に関わる諸問題に取り組む。この他,大型赤外線望遠鏡(Subaru,Gemini South, VLT)で昨年度までに取得されたデータの解析にも取り組み,順次出版を図る。ダスト成長や惑星形成の理論についても,観測との比較を意識して進める。円盤・惑星相互作用については,ギャップにより引き起こされるダストのせき止め効果を取り入れるなど,その理論的理解をさらに精緻化するだけでなく,観測的に検証可能な特徴を明示する努力をする。ダスト進化モデルに基づいた輻射輸送計算では,特に散乱角度依存性や偏光の性質を調べることで,円盤輻射からダスト進化の様子を明らかにする方法を確立する。また,円盤内の氷微惑星蒸発の研究を通じて得た氷物性の知見を原始星の円盤降着期にも応用し,ALMA観測との融合させる。円盤ガス化学に関してはすでに観測との比較で成果を得ており,それを継続する。加えて,中心星活動による宇宙線遮蔽を考慮に入れた円盤電離度計算を遂行するため,宇宙線研究の経験がある研究員 1名を新規雇用する。室内実験では,低温室と衝突銃の同時運用により,衝突破壊に対する斜め衝突の影響を系統的に調べるほか,氷天体での地殻強度や空隙率とクレーター形態との関係を明らかにする。シリケイトダスト成長に関する理論的な研究との融合を目指し,微粒子付着の実験実施も模索する。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (38件) (うち査読あり 38件、 オープンアクセス 28件、 謝辞記載あり 10件) 学会発表 (75件) (うち招待講演 8件) 備考 (3件)
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