研究領域 | 先端加速器LHCが切り拓くテラスケールの素粒子物理学~真空と時空への新たな挑戦 |
研究課題/領域番号 |
23104002
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
徳宿 克夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (80207547)
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研究分担者 |
受川 史彦 筑波大学, 数理物質科学研究科(系), 教授 (10312795)
海野 義信 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器科学支援センター, シニアフェロー (40151956)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / ヒッグス粒子 / 標準理論 / ピクセル検出器 / 耐放射線検出器 / 国際研究者交流スイス |
研究実績の概要 |
本研究は、LHCでの国際協力で建設されたアトラス検出器を用いてヒッグス粒子を発見し、ゲージ対称性の破れと質量の起源の謎の解明を目指す。既に前年度までの解析で質量126GeVの新粒子を発見し、スピン・パリティなどの解析と通して、ヒッグス粒子と同定できた。 世界最高エネルギーの陽子・陽子衝突型加速器LHCは、重心系エネルギー7TeV及び8TeVでそれぞれ積算ルミノシティ約5、23fb-1のデータを収集した後、加速器の改造のために2013年春から2015年春までの長期シャットダウンに入った。このため、2014年度の研究活動は、これまでに収集したデータの解析と、次の実験のための準備が中心となった。 本年度は、これまで収集した全データを使っての解析をほぼ終結させ、解析している多くの崩壊モードで論文投稿がほぼ完了した。発見された粒子は測定誤差内で標準理論のヒッグス粒子の振る舞いと一致している。これらの解析終了を受けて、もうひとつの国際共同実験であるCMS実験との共同解析を始めた。両実験をあわせることで、ヒッグス粒子の質量を125.09+-0.24GeVと既に0.2%の精度での測定が可能となった(論文1、2015年3月投稿、受理済)。 一方で、ピクセル検出器の開発も順調に進んでいる。放射線損傷に弱い箇所を同定でき、それを避ける設計が有効であることを、海外でのビームを使った試験を行って確認できた。一方でピクセルセンサーと読み出しASICの接合(バンプボンディング)の改良も進めているが、歩留まりが悪い状況が続いている。薄くしたときにセンサーおよびASICが反ってしまうのが主要因であることをつきとめたので、その改良をさらに進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヒッグス粒子の発見を当初の予想より短期間に達成できた。2013年ノーベル物理学賞はヒッグス機構の提唱ということでヒッグス氏とアングレール氏の2人理論研究者が受賞したが、この発見がその受賞の大きな論拠となった。ヒッグス粒子の性質の精査が進み、現在までの所の解析では、標準理論の予言する性質と矛盾ないことを確認できている。2014年度は二つの実験の共同解析にまで踏み込み、これによってヒッグス粒子の質量を0.2%の精度で測定できたのも、大きな成果である。 ヒッグス粒子の発見とその質量の確定は、素粒子研究にとどまらず、宇宙初期のインフレーションとの関連、ダークエネルギーとの関連等、おおくの「夢」を含んだ、素粒子・宇宙論の構築を活性化し、多くのモデルが提唱された。実験的にも次項で述べるように次の探索への方向を明確にできるようになった。 ピクセル検出器の研究開発も順調に進んでおり、既にこれまでの研究で、将来の高輝度ランで受けるのと同等の放射線照射後にも使用に耐える測定器を開発できている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの分析では、今回発見したヒッグス粒子は標準理論の予言する粒子とほぼ一致していることがわかったが、そもそもヒッグス場が標準理論に導入される仕方はかなり恣意的であり、なぜヒッグス場が存在するかはわからない。発見に至ったこれからは、この粒子の精査を通して、この問いに対するヒントがないかをしらべることが中心課題となる。 一つの方向は、これが唯一のヒッグス粒子であるかどうかの確認で、多くの標準理論を超えるモデルでは、複数のヒッグス粒子が存在したり、ヒッグスと特殊に結合する新粒子の存在が提案されている。これらのヒッグス粒子は、標準理論のヒッグス粒子とは異なった生成断面積・崩壊分岐比を持つので、いっそう広い範囲で、標準理論にとらわれない新粒子の探索を進めるのが一つの方向である。 もう一つの方向は、126GeVのヒッグス粒子の性質の精査である。特にヒッグスとトップクォークやボトムクォークとの結合の解析の感度を上げ、2015年からのデータを加えることで、さらに高い精度で測定を進めていく。 どちらの方向でも、残念ながら2015年度に取れるデータ量は限られているので、研究期間内で実データで探索ができる範囲はあまり広がらないが、ここで開発した解析手法はその後の研究の基礎となり重要な財産となる。 ピクセル検出器開発では、現在残っている一番の課題は、薄いセンサーと読み出しチップとの安定したバンプボンディングの改善でこれが、最終年度の重要な課題となる。
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