研究領域 | 先端加速器LHCが切り拓くテラスケールの素粒子物理学~真空と時空への新たな挑戦 |
研究課題/領域番号 |
23104006
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
野尻 美保子 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (30222201)
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研究分担者 |
兼村 晋哉 富山大学, 理工学研究部, 准教授 (10362609)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 素粒子実験 |
研究実績の概要 |
超対称模型のスカラートップや、トップパートナーの出す信号や、その信号から模型の詳細を調べる方法について研究を行った。とくに、トップ粒子の偏極から、スカラートップの右巻左巻混合を検出できるか研究し、肯定的な結果を得た。この解析では、ジェットの内部構造をもちいた再構成を行い、なおかつb タグをつかうことによって、パートンレベルの分布に近い分布を再構成することに成功し、また、再構成確率を向上させた。重いベクトル的なクオーク(トップパートナー)の探索では、この粒子が top とヒッグス粒子の崩壊するモードが、探索上重要であることを指摘して、探索可能性をシミュレーション等で示した。 暗黒物質とLHC 実験との関係についても研究を行った。暗黒物質が安定な素粒子であるということが確立する一方で、暗黒物質の正体は明らかになっていない。LHC のような衝突実験では暗黒物質と陽子との直接的な相互作用をもとに暗黒物質を探索することが可能であることが指摘されおり、第一世代のクオークや、グルーオンとの高次元のオペレーターなどLHC で探索し易い相互作用についてはすでに研究が行われていた。そこで、トップクオークなどの第三世代の素粒子や、第二世代の素粒子に対する結合について、LHC から得られる制限を一般的に検討した。 ヒッグスセクターについては、当初ヒッグス粒子の分岐比に標準模型からのずれの兆候が見られた。このため兼村は、様々なヒッグスセクターを拡張する模型をこのデータを用いて解析した。また野尻は余剰次元模型においてヒッグス粒子とラディオン(余剰次元空間のサイズに関わるモード)の混合をKK モードの寄与もいれて精密に解析した。また、タウを含むヒッグスセクターについて、新しい再構成法を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
暗黒物質に関わる信号、サブジェットを含む解析、ヒッグスの再構成法など、余剰次元模型など、広い対象について新しい結果を出す事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
2012年にはヒッグス粒子と考えられるスピン0の粒子が発見された。ヒッグスの質量 126 GeV は、超対称模型と考える場合にはやや重いほうであり、一方で、複合模型などのダイナミカルな起源と考えるには軽すぎるという結果になった。超対称模型の枠内ではヒッグス粒子はやや重い超対称粒子を示唆しており、一方、階層性問題の観点からは、スカラートップ粒子は軽いことが期待される. このことから、スカラートップと第一世代の超対称粒子の質量差が大きい模型、スカラートップの右巻き、左巻き混合が大きい模型、トップパートナーが存在する模型、スカラー粒子が全て重い模型など、これまでとは異なるタイプの模型が注目されるようになった。このような模型はスカラートップ、グルイーノなどもっとも軽いカラーをもつ超対称粒子の崩壊からくる相対論的なトップ粒子の存在が期待される。これらにたいしてサブジェットを用いた解析などを駆使して今後の解析方法について検討する。またより重い粒子を確実にLHC で発見するために、最近注目されているISR のスピン相関を使うことを試みる。 また14TeV のLHC 実験においては超対称粒子の質量スケールやヒッグス粒子の性質が、かなり精密に抑えられると考えられる。一方で現在建設が検討されているILC 実験においては軽い超対称粒子やヒッグス粒子の精密測定などの物理が考えられるが、ILC で調べうる範囲と、LHC で調べられる範囲の相補性について、慎重に検討する必要が生じている。とくに、有望なシナリオについて、ILC が有意な結果をあげることができる条件についても検討を行う。
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