研究領域 | 先端加速器LHCが切り拓くテラスケールの素粒子物理学~真空と時空への新たな挑戦 |
研究課題/領域番号 |
23104006
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
野尻 美保子 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (30222201)
|
研究分担者 |
兼村 晋哉 富山大学, その他の研究科, 准教授 (10362609)
|
研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
|
キーワード | 素粒子理論 / 素粒子実験 |
研究概要 |
1. LHC 実験はルミノシティが極めて高いため、レプトンやフォトンを含むシグナルを高い精度で検証することができる。そこで極めてわずかなレプトンのシグナルを出しうる新しい物理について検討をおこなった。具体的には、 a) ミューオンの異常磁気能率を説明する模型に対してLHCから厳しい制限が得られることを示し、13TeVのLHC実験では、この模型を完全に制限できることを示した。b)また、非対称暗黒物質(ADM)模型において、10GeV 程度の暗黒物質(DM)、DMの密度を決定するスカラー粒子、スカラー粒子とヒッグス粒子の混合という3つの要素がある模型で、スカラー粒子の証拠をそのレプトン崩壊から得られることを指摘した。2) ISR は重い粒子が生成されるときにかならず生成されるため、それ自身が新しい物理の証拠となると考えられている。そこで、DMの一般的な相互作用の模型を考え、この粒子を検出する方法を総合的に提案した。また超対称模型が縮退した質量スペクトルをもつ有力な模型において、ISR の相関やクオーク・グルーオン比率をカットして用いる、有望なシグナル領域を提案した。3. 兼村はLHC・ILC実験における第二のヒッグス探索に関する研究を初め、発見されたヒッグス場の結合定数に対する輻射補正の研究、ダイナミクスは強結合で一次的電弱相転移を引き起こすことでバリオン数非対称性問題を電弱スケールの物理で説明すると同時にニュートリノ質量を輻射補正で生成し暗黒物質候補を伴う模型を低エネルギー有効理論として導く、10TeV程度での閉じ込めを伴うUV完全な超対称QCDダイナミクスに基づくシンプルな理論の建設等をおこなった。またヒッグスの研究については、野尻はRadion Higgs mixing のある余剰次元模型のILC の物理について包括的な研究をおこなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
LHCにおけるDM の包括的研究といったこれまでの研究の総まとめとなる研究だけでなく、HL-LHC を見据えたレプトンシグナルの物理を提唱した。また、論文はまだ出版されていないが、DM の研究から発展した、ISR の物理の研究について大きな進展があった。この研究はIPMU のSaty と連携研究者の萩原がgluino production の前方ISR におけるスピン相関事象を実際の生成プロセスに適応し、とくに発見が難しい縮退した超対称模型について応用したものである。前方にISR が出る事象に注目することで、超対称模型のbackground を大幅に減らし, スピン相関を利用した phiカットでさらにバックグラウンドを減らした。また, gluino 生成のISR に gluon が多く含まれることに着目して、quark jet を減らすカットをおこなうことによって、background を減らすことも可能であることを示した。縮退した超対称模型では、missing ET , Meff のカットを大幅にあげることによって、13TeVの発見をおこなうことが提案されていたが、このカットを大幅に下げ、生成粒子のスピンなどの重要な情報も集めながら、探索をおこなう可能性を広げた。また、最近注目されている、クオーク、グルーオンに由来するジェットの性質の差に着目することが有益であることを示し、今後の研究をリードできる基盤が整った。またヒッグスについてはILCでの結合定数の精密測定を見据えた研究やバリオン数生成との関係についても新しい知見を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
2014年度はLHC実験では主にクオークグルーオンジェットの差という新しい物理量を中心に研究をすすめる。具体的には、異なるパートンシャワー理論に基づくparton shower generatorである Pythia 6, 8, Herwig ++, MC@NLO 等の結果を比較しシステマティックを評価する一方で、クオークグルーオンセパレーションが有益であると思われる物理プロセスの検討をおこなう。とくに最近注目されているスカラークオークが重い場合に期待されるグルイーノのグルーオンへの直接崩壊、ISR の除去による質量再構成の向上などが有益である。さらに、ジェット内部構造の他の方法をクオークジェット、グルーオンジェットの識別という観点から整理して、より効率のよい方法を検討する。 また兼村はLHC実験を用いてボトムアップでヒッグスセクターを決定するストラテジーを構築し、ヒッグスセクターの解明よってどのような新物理理論が背後に在るかを決定する為の研究を行なう。シンプルな拡張ヒッグスセクターとして、標準理論的なヒッグス場に新たにアイソスピン1重項場、2重項場、3重項場等が加わった模型を一般的な枠組みで考え、第二、第三のヒッグス場がどのように発見されていくかを理論的に調べる。このために生成と崩壊プロセスを解析し、どのようなケースに今後のLHC実験で同定されるかを研究する。既に発見されている126GeVの質量を持つヒッグス粒子の性質を徹底的に研究する。特にこの粒子と標準理論の様々な素粒子場との結合定数に現れる新物理学の効果を超対称性に基づく理論を初め様々な新物理理論に基づいて評価し、LHC実験や将来の国際線形加速器実験を用いて、見つかったヒッグス場の結合定数に現れる標準理論からのズレを系統的に調べる。
|