研究領域 | 先端加速器LHCが切り拓くテラスケールの素粒子物理学~真空と時空への新たな挑戦 |
研究課題/領域番号 |
23104010
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡利 泰山 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (40451819)
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研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 弦理論 / 加速器物理 |
研究概要 |
新学術領域「テラスケール」のB03班、「テラスケール物理から超弦理論への展開」では、最先端加速器実験と超弦理論の間に接点を作り上げる理論的研究を遂行することにより、実験成果の最大化を図ることを目的とする。平成24年度は、主に2つの研究テーマを扱った。 一つめのテーマは、超弦理論の AdS/CFT 対応を用いたハドロン散乱現象の研究である。クォークやグルーオンの高エネルギー大角度散乱は量子色力学による摂動計算によって理論計算が可能であり、理論と実験データとの比較が可能である。しかしハドロン散乱の実験データが先端加速器実験により新時代を迎えようとしているにもかかわらず、理論計算の手法なしには、実験との比較のしようがない。その状況を打破しようとする試みである。我々の成果の一つとして、ハドロン n-体の散乱の強度が n によりどうスケールするかについての経験的仮説、"naive dimensional analysis" の AdS/CFT による検証を行い、その一般化および補正の提案をした。また、前年度から継続して、19か月間を費やした研究を論文として公表した(arXiv:1212.3322, 雑誌未投稿)。ハドロンと光子の深部非弾性散乱の形状因子を AdS/CFT により求めるものであり、超弦理論の側の理論の開発にまでさかのぼるものとなった。この分野の理論的基礎をなす文献である、Brower et.al. (JHEP '06) を精密化して、さらに一歩進めたものになっている。 もう1つのテーマは、特異点を含む時空の物理について研究である。成果の1つとして、F-理論における楕円ファイバー幾何の特異ファイバーの発現バターンと、物理的描像との間のきれいな関係を見出して、論文にまとめた。当該分野における理論的混乱を整理する内容となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理論研究の常で、研究が進むにつれて新たな問題や課題が出てきたり、取り組んでいた問題が想定よりも深いことが分かってくることがある。そのため、数か月の単位で応用的成果を得るペースは遅れざるを得ない。 応用目的専一の研究課題においては、そのような遅れは当初の目的を達することが遅れたりできなくなったりするので大いに問題である。しかし、基礎理論の探求が中心となる研究課題においては、むしろ新たな問題を発見することが既存の問題を解決することよりもはるかに重要であり、表面的には遅れに見える場合でも、むしろ望ましい状況であることもある。 B03班における現在の「遅れ」はそのような性質のものであり、憂慮するにあたらないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
LHC加速器での実験の進行状況および、共同研究者の availability を参考に入れ、随時、 1.ハドロン物理の弦理論による研究、2.宇宙論、素粒子論の融合研究、3.超対称性の破れの研究、4.ミクロ領域での時空像の探求、の4系統への優先順位や資源の割り当てを機動的に変更していく。
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