研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
23105002
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
寺田 眞浩 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50217428)
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キーワード | 有機分子触媒 / 不斉合成 / 物質変換 / 水素結合 / 酸触媒 / 環境調和 / 分子認識 / 反応場 |
研究概要 |
環境負荷の軽減を目的とした有機変換反応の高効率化と高選択性の実現は有機合成化学者に課された命題の一つである。特に新規触媒反応系の設計はこうした効率化と高選択的反応の開発を推し進める上で益々重要となってきている。申請者はこれまで、有機変換反応における最も古典的かつ汎用性の高い触媒であるブレンステッド酸に不斉認識や分子認識などの基質認識能を付与した有機分子触媒の設計開発に取り組み、ビナフチル骨格を不斉源とするキラルモノ-リン酸触媒の開発に成功している。これまでの開発研究により、キラルモノ-リン酸によって活性化が可能な官能基はかなり広範囲に渡るようになってきた。しかし、その一方で従来のキラルモノ-リン酸触媒では充分な立体選択性を得ることができない反応系も残されており、また、不斉触媒化の実現されていない反応系も依然として数多い。今後、医薬品など多岐に渡る光学活性化合物の需要に応えるには、触媒反応系のさらなる拡充が益々重要な課題となってきている。本計画研究は、こうした要請に応えるため、酸性官能基を同一分子内に複数組み込むことで、それらの分子内水素結合を分子設計戦略とする新たなキラルブレンステッド酸触媒系、多酸系複合型触媒の設計開発を目的とする。研究初年度にあたる平成23年度は、東日本大震災の影響で復旧と併行しての研究活動となったが、幸い、キラルモノ-リン酸触媒の発展系として、同一分子内にリン酸官能基を二つ組み込んだキラルビス-リン酸触媒の設計開発において予備的な研究段階ではあるが一定の成果を挙げていたことを足掛かりに、キラルビス-リン酸触媒の機能を明らかにするため、アクロレインとアミドジエンとのDiels-Alder反応の開発を検討した。その結果、ここで開発したキラルビス-リン酸触媒が、これまで用いてきたキラルモノ-リン酸よりも高い触媒活性と選択性で生成物を与えることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究では、申請者がこれまで開発研究に取り組んできたキラルブレンステッド酸による触媒反応系のさらなる発展系として、酸性官能基を同一分子内に複数組み込むことでそれらの分子内水素結合を分子設計戦略とする多酸系複合型触媒の設計による新たな制御システムの開発を計画している。研究初年度にあたる平成23年度は、東日本大震災の影響で復旧と併行しての研究活動となったため、十分な研究環境下での実施とまでは行かなかったが、幸い、キラルモノ-リン酸触媒の発展系として、同一分子内にリン酸官能基を二つ組み込んだキラルビス-リン酸触媒の設計開発において研究成果を挙げることに成功した。 アクロレインとアミドジエンとのDiels-Alder反応において、キラルビス-リン酸は従来のキラルモノ-リン酸よりも高い触媒活性を示し、また、エナンチオ選択性も99% eeと極めて高く、ほぼ光学的に純粋な生成物を得ることに成功した。このエナンチオ選択性は従来のキラルモノ-リン酸の場合に88% eeとの比較からも明らかなように、優れた触媒機能を有していることが明らかとなった。震災復旧との併行であったため、期待以上の進展は見られなかったものの、研究計画に従っておおむね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究でキラルモノ-リン酸触媒の発展系として取り組んでいた、同一分子内にリン酸官能基を二つ組み込んだキラルビス-リン酸触媒の設計開発において一定の成果が認められた。そこで、平成24年度は、このキラルビス-リン酸の開発時における知見をもとにさらなる構造修飾により、高機能化を目指すとともに、機能発現の本質を理解し、さらなる展開を図るうえでの指針を確立する。特にこれまでのビス-リン酸では、pseudo-C2対称性を有する分子設計を進めてきたが、二つのリン酸部分の役割分担、すなわち、酸性度を向上させるためのリン酸と、反応基質を活性化するためのリン酸基とを作用分離させたC1対称なビス-リン酸触媒を新たに設計開発する。これまでのキラルリン酸触媒はpseudo-C2対称性に基づく分子設計しか検討されておらず、反応系に即した触媒開発といった観点からは必ずしも十分な機能開拓がなされてきたとは言い切れなかった。このキラルビス-リン酸開発により高活性と高機能化を実現することで多様な反応系への展開を目指したい。
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