研究実績の概要 |
申請者のこれまでの研究により実証された、水素結合とイオン間相互作用の組み合わせによる構造の定まったイオン対形成を基盤として、有機イオン対の構造制御に立脚した高効率かつ高選択的な分子変換反応を開拓し、今世紀のものづくりに利用可能な力量あるプロセスの実現を目指して研究を行った。鍵構造として取り上げたP-スピロ型キラルアミノホスホニウムイオンの機能別に、今年度の研究成果の概要を示す。 (a) 共役塩基の触媒作用:位置選択性を得ることが困難であるためこれまで開発が遅れていた、δ位にアルキル置換基を持つ電子不足ジエンへの1,6-選択的共役付加反応をほぼ完全な位置・立体選択性で実現した。さらに、同様の触媒システムがζ-置換型の電子不足トリエンに対しても有効に機能することを実証し、初めての1,8-選択的共役付加反応を高ジアステレオ・エナンチオ選択的に達成した。 (b) 超分子イオン対の触媒作用:δ位にアリール基を持つジエニルカルボニル化合物は拡張した共役系を備えているため、共役付加反応における位置選択性の獲得が極めて難しいことが知られている。上記(a)の知見に基づき、単純な塩基触媒系を超分子イオン対型の触媒系へと展開することで、位置および立体選択性の制御が可能になることを見出した。 (c) イオン性Br#248;nsted酸触媒作用:イオン性Br#248;nsted酸が有機塩基の共存を許容する点に着目し、酸-塩基協働型触媒系を構築することで既存の触媒系を凌駕する基質一般性を備えたチオMichael反応を開発した。また、生成物をキラルなタウリン誘導体、β-サルタムへと変換することで、本系の合成化学的価値を明確にした。 (d) 二相条件下での触媒作用:これまでの触媒システムの限界を打ち破るため、触媒基本骨格の修飾に取り組んだが、これまでのところ有効な新規骨格を見出すには至っていない。
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